心の故郷とでも呼ぶべき場所と、忘れえぬ出会い

題材も筆致もシンプルですが、描き出される世界は実に立体的です。狭くて寂れた、それでも居心地のいいゲームセンターという場所の空気がありありと伝わってくるのは、言葉選びや道具立ての適切さの成せる業でしょう。堂々と、しかし一周目ではまず気づけないように配置された宝箱のような描写は、ただ見事です。

それからキャラクターの奥深さ。ゲーマーらしい戦略性とテクニック、そしてあらゆるステージから楽しみを見出せる才能を併せ持った「教授」。子供と大人、ふたつの視点から「教授」を見つめる「ぼく」。この素晴らしいプレイヤーたちの織り成す物語は、読み手の心を震わせずにはおきません。

ゲームに夢中になったことのある人はもちろん、そうでない人にもお勧めできる、巧みで美しい短篇です。

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