待ち受ける敵を撃破しながら、建物の最上階を目指す。大切な人を取り戻すために戦う。このうえなくシンプル、小細工無用といっていい筋書きの作品だと思います。そういうのはよく知ってる、RPGによくある――そんな軽い気持ちで読みはじめたところ、度肝を抜かれました。
確かに知っているはずのことが起こるのです。雑兵がわらわら出現する、罠が仕掛けてある、上の階に進めば強敵と出くわす。繰り出される展開はこれでもかというほどに王道です。それでも面白いのは書き手の地力によるもの――には違いないのですが、どうやらそれだけではない。
なにが鮮烈だったのか。一言で述べるのは難しいのですが、「手触り」あるいは「身体感覚」といった言葉が近いように思えます。人間とはまったく違った知覚と能力を持つ者(異能力者と言い換えても構いませんが)にとっての戦闘の在り方を描き出す力。リアルだとか映像的だとかいった表現ともまた違う、「動き」それ自体への没入感を生じさせる力が、この作品には宿っているのです。
思い返してみれば、異能力バトル作品に触れる際、僕は常に「観戦者」でした。傍目に見ただけで知った気になっていたというわけです。この作品は、安全地帯での「観戦」を許してはくれません。いったん読みはじめれば、最後までともに戦わなくてはならないのです。