電子の森の魔法使い -Wizards in the Game Room-

怪奇!殺人猫太郎

第1話

「ゲームの攻略とは畢竟、ゲームを作り変えることです」


 春が近くなると、ぼくは師匠の言っていたことを思い出す。

 師匠といっても、その人はいわゆる習い事の先生ではなかったし、ぼくがその人に弟子入りしたという事実もない。

 でも、ぼくにとってその人は「師匠」としか呼びようがない存在だった。

 

 いまから20年近く前。

 とある地方の、小さなゲームセンターで。

 ぼくは、彼からいろんなことを教わった。


 それはシューティングゲームの復活パターンであったり。

 また、対戦格闘ゲームの連続技であったり。

 連射装置の仕組みだったり。

 あるいは、都会のゲームセンターの雰囲気だったり。

 面白い小説や漫画や、映画の情報だったり。

 ときには、学校の勉強や大学受験のテクニックだったり……。


 彼はぼくに、たくさんのことを教えてくれた。

 彼は、ぼくに世界の見方を教えてくれた。

 だから、ぼくが彼のことを師匠と呼んでも、何の問題もないと思う。


 20年前、ぼくは中学生で、彼は大学院生で。

 二人とも、あの小汚くも美しいゲームセンター「Game Space Woody」——通称ウッディ——の常連だった。

 ウッディは、気のいい老夫婦が営む、こぢんまりとした店だった。

 機械いじりと子供が好きだったおじいさんが、おばあさんのやっていた駄菓子屋を改装して作った店なのだという。

 Woodyという名称は、店主夫婦の姓に「森」という字が入っているからだとの噂だった。


 狭い店内には、アップライト筐体が8台ほど並んでいたと思う。

 最新のゲームこそないものの、おじいさんがこだわりってメンテナンスしたコンパネは、大手メーカー直営店にも負けない操作性を誇っていた。

 お店の片隅には駄菓子やカップラーメンを売っているコーナーがあって、いつもおばあさんが静かに店番をしていた。

 小腹が空くと、ぼくたちはおばあさんに100円玉を渡し、カップラーメンを作ってもらった。ちなみに、小銭がなくなったときの両替も、おばあさんがやってくれる。

 ラーメンを食べながらゲーム筐体の周りで騒ぐぼくたちを、あの老夫婦はいつも優しい目で見守ってくれていたっけ。


 ウッディは、ぼくの自宅と通っている中学校の、ちょうど真ん中くらいにあって、学校帰りに寄るにはちょうど良い場所だった。


 当時のぼくは、学校に居場所がなかった。

 アニメや漫画が好きで、そしてそれ以上にゲームが好きなぼくは、フィクション中のキャラみたいな喋り方をするせいで、クラスメイトからは奇異ので目で見られていた。

 ぶっちゃけると、クラスの中で極端に浮いていたのだ。

 いじめられたことはないけれど、男の子たちも女の子たちも、ぼくのことを困った存在として扱っていた。


 ウッディにあっても、ぼくは少し浮いていた。

 店に集う普通の男子中高生たちは、当初ぼくを奇異の目で見てはいた。

 しかし、ぼくが単にゲーム好きな人間だとだとわかると、次第におっかなびっくり話しかけてくるようになった。


 ウッディの主な客層は、小学生から高校生くらいだったけれど、近くに大学の実験場があるとかで、大学生や大学院生のお兄さんたちが時折息抜きにやってきていた。

 

 ぼくの師匠も、その中の一人だった。

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