第2話

 師匠の本名を、ぼくは知らない。


 一緒にウッディに来るお兄さんたちからは、「教授」と呼ばれていた。

 実際には先生ではなく学生なのだけど、いつもヨレヨレの白衣を羽織っていることや、妙に老成した物腰、浮世離れした言動は、ぼくたちの持つ「教授」のイメージにぴったり当てはまっていた。


 教授は、常連の中では一目も二目も置かれていたと思う。

 何と言っても、ゲームがうまい。

 ぼくたちが1面も越せないような高難度のシューティングゲームを、すいすいクリアしてしまう。

 彼がプレイすると、どんな難しいゲームでも簡単なゲームのように思えてきて、ぼくたち下手っぴでもコインを入れたくなってくる。

 コインを入れたところで、すぐに撃沈してしまうのだけど。

 お店主のじいさんは、よく「教授のおかげで、坊主どもがいろんなゲームに興味を持ってくれるよなぁ」と笑っていた。


 そして、教授はゲームの知識が豊富だった。

 本人は「雑誌の受け売りですよ」と笑っていたが、受け売りなんてとんでもない。

 彼の知識は表層的なものじゃなかった。

 自分でゲームをたくさん遊んでいないと得られないタイプのものだったと思う。

 ぼくが「教授はいろんなことを知ってて、すごいですね」と褒めると、彼はいつも照れくさそうに「なんの役にも立たない知識ですけどね」と謙遜した。

 教授は10歳くらい年下のぼくにも丁寧語で喋ってくれる人で、彼と話していると、「すごい人がぼくのことを認めてくれている!」と感じられて、なんだかとても嬉しかった。


 まぁ実際は、彼は老若男女を問わず丁寧語で接するので、ぼくが特別扱いされていたわけではないのだけれど。

 それでも嬉しかったのだ。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る