第6話 後は野となれ、山となれ
私はペヘトコンの母となった。ペヘトコン星系を覆う、巨大な陰性感情防波壁となった。そして、私はこれから70年もの間、ペヘトコンの民を守ることになるのだ。70光年先にある地球からは、多くの負の感情、不安、罪悪感、後悔、憎悪、そして絶望……がまさに怒涛のように押し寄せてくる。私、いや私たちペヘトコンの民は 自分の殻に閉じこもることによって、それらを回避するのだ。
果たして、それは良いことなのだろうか。しかし、私たちにそれは仕方がないことなのだ。私はあなたとは違うのだから。私は、あなたの気持ちを知ることなどできないのだから。
あと、70年後には、地球で発せられた私の陰性感情波も、ここペヘトコン星系にいる私に届く。その時になったら、私は自分の殻を破ろう。私は私である。私は、私の気持ちくらいは知っている。しかし、それから何が起こるのかは私にもわからない。卵の殻の内からは外が見えないように。それでも、私の心は、卵から孵化するヒヨコを見つめる子どものように、踊り高まっている。
(おしまい)
異星人婚姻譚 @nikuja
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