第2話 後悔先に立たず
あの子は死んだ。警察に正直に話しても疑われるだけだから、拾った場所に戻してあげた。あの子の死に顔は、苦しみに満ちた悪魔のようだった。あのときの天使のような微笑みはどこに行ったのだろうか。
「あの子は死ぬ運命だったんだ」
私はあの子の死をユウタに電話で伝えると、私にそういった。励ましのつもりなのだろうか。私は、彼がそのような陳腐な決定論で精神を安定した状態を保っていられることに腹が立った。このまま話していると彼に当たってしまうと思ったので、疲れたから寝るね、と言って受話器を置いた。
目が覚めると、私の腹はたちまちグーグー鳴きだした。まるで、私に対する警笛のように。ユウタのこと馬鹿にできないなあ、そう思いながら、冷蔵庫の中を弄るが、ひんやりとしたキャベツの芯が手の甲に当たっただけだった。そこで、近くのスーパーに買い物に行くことにした。
私が横断歩道を渡ろうとすると、ちょうど信号が赤になった。足を止めると、あの子を元の場所に戻した罪悪感が蘇る。
「キーン、キキーン、キキッ」
右後ろから耳鳴りのようなけたたましい音がした。思わずそちらを見ると、一緒に信号待ちをしていたおばさんが驚いた顔でこっちを向いていた。そして、おばさんはおもむろに携帯をいじり始めた。
「ああ、現在地が更新されてなかった……」
おばさんは、そう呟きながら、私に向かって微笑みかけると、次のようにささやいた。
「もう一度言うけど、あの子はあなたと私の子よ」
そのおばさんの微笑みはあの子の微笑み方と同じだった。そして、私は得体の知れない強烈な感情に襲われた。不安、罪悪感、後悔、憎悪……。それらが混ざりあった感情なのだろうか。するといきなり、おばさんが倒れこんでしまった。私がおばさんを揺さぶると、おばさんはたちまちセミの抜け殻のように潰れてしまった。私は怖くなって、逃げるようにしてユウタの家に駆け込んだ。
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