第3話 論より証拠

インターホンが鳴ると、ユウタの背中の奥にさっきのおばさんとは違うおばさんがいた。

「マリさん、いますか?」

呼ばれたので、私が玄関先に出ると、おばさんはいきなりささやいた。

「もう一度言うけど、あの子はあなたと私の子よ」


そう言われて、私は、またもや不安と罪悪感と後悔と憎悪が混じり合った、あの感情に襲われた。

「うわあ、ひどい。やっぱり陰性感情波も距離の自乗に反比例するのね。でも、今度はいきなり倒れこむようなことはしないから安心してね」


「いきなり……あなたは何なんですか? 」

ユウタが冷静をつくろいながら、おばさんに尋ねた。すると、おばさんは捲したてるように言った。

「地球中心主義的に申し上げるなら、私は異星人です。中立的観点に従うなら、しし座α星A系を拠点とするペヘトコン共同体のシベラソアです」

「はあ?」

今度はユウタも冷静をつくろうことができなかったようだ。


「『論より証拠』という言葉が、ここ太陽系にはあるみたいだけど、私たちペヘトコン共同体にも似た言葉があるの。今、このラットを陰性感情防波壁から出すから、これに負の感情をぶつけてみて。思いっきりね」

そして、おばさん……いや、これからはシベラソアと呼ぼう、は小動物が入った檻をカバンの中から取り出した。


シベラソアは、その小動物をラットと呼び、姿形も確かにラットだったが、体をくねらせながら前進する挙動は、まるでカナヘビのそれだった。

「ああ、この子はまだ、この体に慣れていないみたいね」

そう言いながら、彼女が檻の扉を開けると、ラットはニョロッと私の方に向かってきたので、思わずのけぞった。すると、ラットは仰向けになって、動かなくなった。そして、シベラソアがラットの腹の筋をなでると、それはセミの抜け殻のように潰れてしまった。


シベラソアは微笑みながら、次のようにささやいた。

「あなたがたには悪気のない言葉で誰かに傷つけられた経験があるでしょう。そういう意味に限れば、私たちペヘトコン共同体は、あなたがたの同胞です」

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