舞台はどこかの世界のどこかにある“花咲く都”。騎士を目ざしていたメルレーテ・ラプティは邪術師の呪いで剣を持つことができなくなった少女だ。
これ幸いと政略結婚を進め始めた家族に絶望し、家を飛び出して夜の街を駆ける中、彼女は運命との会合を果たす。運命の名は『ドールブティック茉莉花堂』。
彼女はドールドレス職人として、新しい自分の人生へ一歩踏み出した。
主人公のメルレーテさんはもちろんですけど、ブティックのお客さんもみんな乙女です!
ドールというものが持つ魅力や魔力、その粘土でできた体を飾るドレスの素敵さ、特別さがこれでもかと詰め込まれた、愛あるエピソード満載です!
読んでて思わずにやーりとしてしまいましたよ数十回。そしてこの作品、愛だけじゃあありません。
作者さんのやわらかな筆が情景をふんわり且つ精細に描き出してくれていて、実に想像がはかどるんですよねぇ。
恋の行方なども含めまして、最初から最後まで目が離せない一作です。
(必読!カクヨムで見つけたおすすめ5作品/文=髙橋 剛)
この物語のストーリーの面白さは他の方がレビューで書いているようですので、私は違う視点で。
自分だけの一品を持ちたいと思ったことはないだろうか?
スーツや靴に腕時計、若いときならバイクやテニスラケット。
今はPCのカスタマイズ。
私はこういったモノに、自分だけの、自分らしい、一品を欲しがった。
ほんの少しだけでもいいから他人と差別化された良いモノ、使いやすいモノが欲しいと思った。
だから、「ドール」への関心や知識などなくても、この作品内で触れられているドールの製作、ドールの購入、ドールの飾り付けに携わる方々の気持ちが判る。
可愛いから欲しい。
でも自分の好みにカスタマイズしたドールへの愛着はひとしおだろう。
製作側も、自分なりの拘りをドールに反映し、そしてそのドールを喜んで買って下さるお客様がいる幸せを味わえる。
この作品には、モノに関わる欲求を満たす描写がところ狭しと描かれている。
作者さんが丁寧に選んだ柔らかい語彙で作られた世界。
時には茶目っ気のある描写で、読者を笑いを誘う。
こうした描写に作者さんの人柄を感じられて、読んでる私も微笑ましい気持ちになる。
この作品は冬村さんだから描ける世界を持っていると感じた。
現在、第一章をほぼ読み終えたところだが、最後まで楽しめそうで嬉しい。
ドールに関心がなくてもモノに拘りを持ったことがある方には是非読んで欲しい作品です。
人間、買わなかった物に対しては酷く後悔しますが、買ってしまった物に対しては不思議と後悔しません。たとえそれがどんな高価なものであっても……
さて、本作は男性には少々取っ付くにくいかのように思われがちですが、じつはそんなことはありません。
普通に読めます。そして面白い。気がつけば世界観に引きずり込まれていく。
特にドレスの描写がすばらしく、まるで実物を手にとっているかのような錯覚までも覚えるほど。
これはもう、愛ですね。好きな物を詳しく書いちゃう。愛なら仕方ない。
ほとんどの登場人物が愛用のドールを抱えており、そのドールにも名前があるので、文章だけだと多少混乱してしまうかもしれません。
しかし、そこに重要な作品の肝があり、決して省略できない要素です。一度読んで終わりではなく、何度も読み返してみるのが良いでしょう。
しかも、それが飽きない。伏線が随所に散りばめられ、一つ一つが一見無関係に思えても、最終的に一つの大きな謎に繋がっていく。
アイツの正体がアレとは、さすがに誰も予想できないでしょう。しかも、そこに説得力というものがある。行動の理由に納得がいくのです。
そうか、だったら仕方ないな、とつい思ってしまうのです。その是非はともかく。
そしてヒロインが強い。決して守られるだけのお姫様ではない、自立した女性として描かれています。
それにしても強い。ヒロイン無しではお店の経営がヤバイ程度には強い。寿退社は認められない。もっとも、本人は望まないでしょうけどね。
乙女向けとありますが、乙女でなくても何らかの趣味に打ち込んでいる方は、特に楽しめます。
と、思って一歩踏み入れたら、最終話を読むまで帰ってこれなくなりました。
その世界の住人は、ドールのように可愛い少女と、気のいい仲間と、ちょっぴり人間とは違った妖精や不思議な人たち。(それと、若干名の男…)
絵のような美しい街や自然を舞台に、甘いだけじゃない、スリルやアクションも有る日々が綴られます。
その描写が細密で繊細。特にドールやドールドレス、紅茶やお菓子に関しては特にです。(正直、おっさんの私には意味がわからない単語も多いけど、文字の雰囲気だけでもかわいい…)
そして、いつまでも続くかと思われた楽しい仲間との日々にも終わりは訪れます……。
その時、タグの、「乙女向き」はこのことなのかもって思いました。
強いです。現代の夢見る乙女は強いんです!(男が頼りないからか…)
そんなわけで、乙女向けってなってますけど、男が読んでも面白い作品ですので、乙女の夢の世界へ行ってらっしゃいませ。
多くのものを得られたお話でした。
ドールはよくわからない?
と、お思いになるかもしれませんがお気になさらずに。気軽にどうぞ。
この世界に訪れた方は可愛い娘さんがお出迎え致します。
その少女を中心に繰り広げられる温かな物語が貴方をきっと素敵な体験へと導いてくれるでしょう。
登場人物それぞれがドールに抱いた気持ちが時に切なく、時に温かく、物語の鍵となって人と人とを繋いでいきます。
読了後の幸福感は保証いたします。
さあ、お店の扉を開いてください。
新しい剣と魔法の世界へとご案内いたしましょう。
心に温かさをお求めなら、ドールブティック茉莉花堂へ。
ただしお財布の紐にはご注意を……
ドールブティック茉莉花堂は、ドールのためのドレスや服や帽子やアクセサリー、乙女心をくすぐる魅力的な品々を取り揃えています。訪れるお客様のなかには、自分のドールのために、専用のドレスを依頼する方もおられます。
これは1人の少女が、ドールのためのドレスを造る物語。
そのお仕事は、ドールの寸法を測って、上等な布を仕立てて、綺麗にお裁縫をするだけではありません。
ドールには持ち主がいます。ドールにも、そして持ち主にも、それなりの歴史が、人生があるものです。オーダーメイドのドレスを依頼できるほどの人物なら、尚更のことです。
ドールに、そして持ち主に寄り添って、そこに刻まれた歴史を汲み取って、茉莉花堂のドールドレスは、その歴史に加わるに相応しいものが造り上げられるのです。
ドールを通じて描かれるのは、人と人との物語。
華やかで、甘くて、可愛らしいものに溢れているけれど、決してそれだけではありません。
読み終えた後には、暖かい気持ちに包まれることでしょう。章の途中で読むのをやめることは、きっとできないはずです。
最後まで、楽しく読ませていただきました。完結お疲れさまでした。
あ、僕はゼローアが好きです。