第35話「ユートピア」
「本当に……申し訳ありませんでした!」
拝啓、日本にいる父さん、母さん。俺は今、異世界の脱衣所で――……全裸で土下座をしながら元気に暮らしています。どうか、俺のことは心配しないでください。
「そ・れ・で! これはどう言う事かしら?」
「ええ、きっちりと説明してもらいましょうか……マサヤ?」
俺が頭の中で日本にいる両親への遺書を読み上げえていると、土下座した俺の頭を二人分の足が踏みつけながらドスの効いたマリアとるりりんの声が聞えてきた。
今のマリアとるりりんはまだ裸にタオルを巻いただけの状態なので俺がこのまま顔を上げれば遥かなユートピアがそこには広がるはずなのだが、俺の頭を踏みつける足に押しつぶされ首から上がピクリとも動かせない。てか、それよりこの状況から生き残れる気がしない。
「事故なんだ! これは不幸な事故なんだよ! 前に俺が、るりりんの入浴中に風呂に突撃しちゃった事があってその時にテンぱって『ヒュプノ』でその場を誤魔化しちゃったんです! マジですみませんでした!」
「って、ことは……アンタ達本当に二人でお風呂入ったりしてたの! け、汚らわしい!」
「いや、待てマリア! 確かに一緒に風呂に入ったがマジでお前の考えている事はしてないって!」
「そうですよ! 私もマサヤに催眠をかけられていたのはビックリしましたが、確かにただお風呂に入っただけで何もされていませんよ!」
「そんなの分からないじゃない! コイツがるりりんの記憶を催眠で書き換えている可能性だってあるのよ!」
「そうでした!」
「いや、待て! それはマリアが『ハイ・ブレイク・スキル』を使ったんだから俺の『ヒュプノ』は全て解けているはずだ! それで、るりりんの記憶に覚えが無いのならそれが正しい記憶だろ!」
「た、確かにそうね…・・・でも、結局、アンタは仲間を洗脳してるりりんの裸を見たことに変わりは無いでしょう!」
「マリア! だから、待ってください! 一緒にお風呂に入っただけで体にタオルも巻いていましたし裸は見られていません! マサヤも言ってやってくださいよ!」
「………………えっと」
「何で黙るんですか! え……ま、マサヤ? 本当に私の裸とか見ていませんよね?」
いや、だって最初に脱衣所で鉢合わせた時に実は思いっきり見ちゃってたからなぁ…………あ、でも、俺はロリコンじゃありませんよ? そこは誤解しないでね。
「つまり、マサヤは『ヒュプノ』でるりりんに催眠をかけていたのは不可抗力だって言いたいわけね?」
「ああ、それは間違いない。俺は断じてやましい気持ちで『ヒュプノ』を使ったわけじゃないんだ」
「じゃあ、何で今回は普通に私達とお風呂に入ろうとしたのよ……」
「う、そ、それは……」
俺がマリアの質問に答えを詰まらせると、マリアは少し恥ずかしがりながら俺に尋ねてきた。
「もしかして……私と一緒に入りたかったとか?」
「え! いや、別に……それも無くは無いが」
「へぇーそうなんだ~マサヤったら私と一緒にお風呂入りたいんだ~♪ へぇー」
すると、それを聞いたマリアは何故か妙に機嫌が良くなり、凄い事を言い出した。
「ど、どうしてもマサヤが一緒にお風呂入りたいなら……じゃあ、一緒に入る?」
「え!」
「でぇええ! ちょちょ、マリア! 貴方は何を考えているのですか! マサヤと一緒にお風呂? それは一体何の自殺行為ですか!」
「べ、別に良いじゃない! 紅魔族では親しい男女が一緒にお風呂に入るのは良くある事なんでしょう?」
「それはマサヤが私にかけた催眠の話ですよ!」
「ああ、そうだったわね。じゃあ、るりりんは一人で入ればいいじゃない? 私はマサヤがどぉーーーしても私と一緒にお風呂入りたいって言うから仕方なく、そう! 仕方なく一緒に入ってあげるのよ! ロリっ子は一人でアヒルさんとでも一緒に入ってなさいな」
「カッチーン! 頭にきましたよ。ええいいでしょう……マリア、貴方がそうやって抜け駆けをしようと言うのなら私も容赦しません。決めました! マサヤ、私も一緒にお風呂は言ってあげますよ! 貴方の希望通り三人でお風呂に入ろうじゃないですか!」
「えええええええええええええ! 俺的には全然喜ばしい事だけど、何で急にそんな話になったんだ!」
「「いいから、つべえこべいわずにこっち来なさい!」」
そうして、俺はるりりんとマリアの二人に引っ張られてお風呂場と言う名のユートピアへ足を踏み入れたのだった。
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今まで読んでいただきありがとうございます。
一度この作品はここで完結とさせていただきます。
レビューをくれた方もフォローをくれた方も応援ありがとうございました。
また、気が向いたら続きを書くかもしれませんので、その時はよろしくお願いします。
このすばらしいアークウィザードに祝福を! 出井 愛【書籍化】 @dexi-ai
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