正直申しますと、とても難しいテーマだと思うのです。
「女子高生がスーパーカブに乗る話」。
物語にするにはあまりにも難しい。
ひと目で読者を惹きつけるキャッチーな要素も乏しい。
でも、読んでしまうのですよね!!!
これはひとえに作者さんの高い筆力、それが存分に発揮された作品であるからに尽きると思うのです。
主人公の天涯孤独おかっぱ女子高生・小熊はもちろんのこと周囲の人間のキャラ立ちもよく、また「スズキ・ハスラー」や「甲州街道」など固有名詞を要所で差し込むことで浮き上がってくる作品の世界観も良い雰囲気を出しています。
素敵な作品に出会えてよかったと、今はただそう感じております。
今さら言葉を並べるまでもないかもしれません。カクヨムからの書籍化作品の中でも、特に一般小説寄りの素敵な読み味を持った作品でしょう。
一台のスーパーカブと出会って人生を変容させていく主人公。
10代の若者にとって、乗り物の違いはそのまま行動範囲の違いなんですよね。
徒歩より自転車。自転車よりバイク。(そしてその先には自動車。)
この年頃ならではの、交通手段ひとつで世界が大きく広がっていく感じがよく表れているのが、この作品の一番の持ち味だと思います。
そして、最終話のラストの一文は鳥肌物です。どんな大量生産品も、一つ一つ、手に渡った人の人生を変えている。作者の思いが込められた一文ですね。