こんなの書いてみたいけど書けないや~読むだけ。
サイハテと呼ばれる街での出来事が日記形式で語られているのですが…実に言葉では言い表し難い不思議な世界観。和のテイストなのかと思いきや、魚が喋ったりドラゴンが居たり…。私個人の感想と申しますか…例えと申しますか…絵画に例えるならエッシャーのだまし絵を見ているかの様な、常識の枠を超えた作品と言えましょう。正直なところ、この様な不思議な、しかし何故か引き込まれる魅力ある物語には初めて出会いました。頭で考えようとせず、感じる事が一番でしょうね。
つかみ所のない曖昧でふわふわとした優しさと不安が入り混じる世界観。いつもの場所でいつも見ている景色が様々な形に切り変わり、くっついたり離れたり。夢、幻、奇妙で幻想的な空間。ああ、こんなファンタジーは自分には書けない、まず思いつかない。悔しい。本当に悔しい。完璧にのめり込んでしまいました。終わりがあろうがなかろうが、最後がくる時まで読ませていただきます。これぞ、幻想小説、そう思いました。
ボタンを掛け違えた服のような世界。それが正しいのか、正しくないのか、何とも、もどかしい。日記を読み進めることで、少しずつ、読み手もこの街の住人へ変わっていく。
舞台はひどく幻想的な街。雨は空に向かって降るし、猫は喋るし、主人公はなんだか死神のような出で立ちをしている。その中で粛々とつづられる日記は、でも、とても日常的で…誰かが隣に引っ越してきたり、仕事に行ったり、一見何の変哲もないのだけれど、そこからは確固たるその街の暮らしの風景が浮かび上がってくる。静かで穏やかで、こんな暮らしに憧れる。この作品と出会えてよかった、そう思います。