ガチャリ!と潜入、目覚めるオレ様!
母親が子をあやすようなゆったりとした潮騒が癒しを届ける街「岬ーmisakiー」。
多くの店が立ち並びたくさんの人々が行き交うメインストリートを抜け、住宅街に囲まれた噴水のある広場を十分ほど歩くと高台が見えてくる。
柵越しにきらきらと輝く海が展望できる恋人たちのデートスポットとして人気が高い。
そんなカップルたちをかき分けてしばらく進むと、大きさにしてコンビニほどの事務所がたたずんでいる。入り口には木で出来たおしゃれな看板が立てかけてあり「伝説対策局」の文字。
「おはようございます」
少女が扉を開けるとケーキの箱を開けたような甘~い香りが漂ってくる。
部屋に入って右サイドは難しそうな本がたくさん詰め込まれている本棚がいくつも並び、まるで図書館のようなつくりに。
向かって左側にはふかふかのソファがガラス製のテーブルをはさんでおりその後ろにはお客様を迎えるように観葉植物が立っている。
奥には黒光りしたお高そうなデスクが鎮座しており、長官席としての風格を漂わせている。
背を向けていたその席の主が椅子をくるりと回転させ
「あら、おはよぉ。昨日はよく眠れたかしら?」
「は、はい。少し騒いだおかげでよく眠れました」
彼女が騒いでいたというなら他の連中はどうなるんでしょうね? といった疑問はさておき。
おネエと一つ目少女という傍から見たら不思議な組み合わせの二人がいつもの挨拶を交わすと、乙姫が立ち上がり本棚の本を押し込む。
アイがそれに合わせて少し左にずれる。すると大きな地響きと共に中央の床が開き地下への階段が現れた。
「さ、行きましょ」
「はい」
アイが乙姫についていく形で階段を下りていく。
「あの……事務所、無人にしてきてよかったんでしょうか」
アイが当然の疑問を投げかけると
「いいのよぉ。大体この国の警察屋さんが動いててウチは暇してるんだから。それにしばらくしたらあのコがくるでしょ」
しばらく下りていくと水族館のような水槽のトンネルに景色を変え、色とりどりの魚たちが出迎えてくれる。その中でもひときわ大きなエイが海のぬしに挨拶をするように彼女たちの上に影をつくった。
「大きくなりましたね、あのエイの子。て言っても見つけたときにはすでに私と同じくらいありましたけど」
と、上を見上げながらアイがほほ笑む。
「マンタって呼ばれるこのオニイトマキエイはエイの中でも大きいって言われるしね。あの時でも生まれたばかりでしょうねェ。大きいコだと八メートルにまでなるコもいるといわれてるのよぉ~」
「この子でも六メートルくらいはあるのに、それ以上の子が……」
「そうよぉ~それでもほかのコに比べると大きい部類なのよん。私が愛情をこめてェ毎日名前を呼んであげてたから期待に応えてくれたのかしら。もぉ~本当にかわいいコ」
いやんいやんと体をくねくねさせる乙姫。
「へー名前なんて付けていたんですね! わたし知らなかったです。なんて言うんですか」
「このコは女のコだからマン」
「あ、着きましたよ」
朝っぱらから下ネタをかまそうとするおっさんを無視して、アイが近代的なデザインの重厚そうな扉の前に立つ。三メートルはあるであろうその扉の認証装置の前に立ち、その純粋な瞳を向ける。
『虹彩認証完了しました。お疲れ様です。アイ・アケナメの入室を許可します。』
重々しい音を立ててその巨体が別れゆっくりと離れていく。
中に入ると左右に伸びる長い廊下が広がっており正面に『←管理棟 囚人室→』の看板が。
二人が右へと歩を進めていくと、やがて囚人室が見えてきた。
囚人室といってもあまり使われることはなく、日本でいえば留置所のようなものが二つあるだけだ。
そんな寝床は今日は珍しく満室となっていて大きないびきが聞こえている。
「にしても……ほんっとうにこのコは。良く囚人室なんかでいびきなんか掻いて寝られるわね」
長官自ら牢屋の扉を開き、
「あ、あの起きてください」
妹ではないが、かわいい部類に入るおとなしめの女子学生にゆさゆさと起こされるという特典付き。
それでも布団にくるまったまま「……あと五分」なんてベタなうわ言をつぶやき起きようとしない幸運な罪人。
「あ、一万円が落ちてる」
ばっ!
そんなアイの一言に布団から飛び出し、地面を這いつくばり始めるクロバ。
やがてお金が落ちていないのを確認すると。
「……んだよ、どこにも落ちてねえじゃねえか」
がっくりと肩を落とす罪人。
「あの、というか、なんでこんなところにいるんですか」
「しかたねえだろ、誰かさんたちがオレ様の家をぺしゃんこにしてくれたんだから」
ぼりぼりと頭を掻きながらその鋭い眼光をジト目にして、気まずそうにそっぽを向くアイをみる。
一連のくだりを終えると再び布団へ戻ろうとするクロバ。
そこへ横から伸びてきた野郎の手が腕をつかんでくる。
「いつまで寝る気なの。さあ行くわよん」
「寝起きのオレ様は機嫌が悪いんだよ、痛い目見たくなけりゃその腕を放しやがれ」
その鋭い眼光でキッとにらみつける、つもりだがまだ眠いのか目がトロンとしていていつも以上の迫力はない。
「大体こんな朝っぱらから何しようってんだよ」
「決まってんでしょ」
くあ……っとあくびをするクロバだったが乙姫の一言で眠気は一瞬で吹っ飛んだ。
「連続少女誘拐犯クロバの取り調べよん、このロリコン」
アイがクロバから距離をとった。
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