ぷはぁーっ!と波乱の幕開けを告げる祝勝会!
陽も、とっ……ぷりと暮れて、街にも
街の片隅でほんのり灯る提灯がならぶ酒場通り。そのまた片隅にあるこじんまりとした酒場「場末モン」から楽し気な笑い声が聞こえてくる。
「にゃ~はっはっは!! きょうはぶれいこ~! にょめにょめ~うたえ~!」
「「「にゃっはっは~!」」」
クロバとすっかり懐いた三匹のコブンズはすっかり出来上がっていた。
祝勝会と称してやってきた6人はクロバ、コブンズ、アイ、親分の順で丸いテーブルを囲むと、敵だったことも忘れて話に花を咲かせていた。
「あ~ん? ……おれ頑張ってきたんだぜぇ……それがよぉ……それがよぉ~」
「あ、あの大丈夫ですよ、元気出してください、ね?」
すっかりコブンズの株を奪われ、意気消沈しているめんどくさい生き物、通称親分。そして隣でいつの間にか話を聞く係に任命されているのがアイ。
苦笑いでも後輩の女のコにかまわれてちょっとうれしそうだ。
「おお~い! おっちゃん、飲み物はまだかあ~?」
「はいはい、今お持ちしますわよ。アルコール入ってないけどね」
――――マスターもう一度そのセリフお願いします。
「この話に出ているあほのコたちは全員コラーやジュースはたまた濃厚みるくなどで場に酔っています。けっしてアルコールなど入っていません。これでよろしいですか?」
――――ありがとうございます。それでは続きをどうぞ。
「お~いおいおい。兄弟よ~そんな悲観的になんなって」
そんな幸せそうな二人(親分のみ)の空間を壊すかのように隣からクロバが親分の首にヘッドロックをかける。
「あ~ん?お前に子分に見放されせっかく手に入れた主役の座を奪われた俺の気持なんかわかんねえよ……!」
ダンっ!と大きなジョッキをテーブルにたたきつける親分。
ちなみにジョッキには濃厚みるくがなみなみと注がれている。
ここで隣の女子高生にでもかけてくれれば株も上がるでしょうに。そういう空気を読めないところが……いえ話を戻しましょう。
「……というか、いつの間に主人公に?」
横で聞いていたアイが少し困ったような笑顔を浮かべながらつぶやくが、彼の耳には届かなかったようだ。
「は~あ~主人公がそんなにいいもんかねぇ~」
コラーたっぷりのピッチャーを一気にあおるクロバは、グェ~ップ!と汚い音色を喉から響かせると
「オレ様だってなあ~いろいろあんだぞ~? 主人公なのに邪魔されてばっかりで第五話にして必殺技も打たせてもらえてねえ。見せ場どころか個性さえ垣間見えてねえんだぞ。知ってるか? 今のところオレ様のアイデンティティーゼロよ? ZE~R○~」
夜の報道番組のメロディを歌いながら両手で引き籠りたくなるような事実を吐露する。
気が付くとバックダンサーのようにコブンズがならび両手で大きな丸を作り、一緒になって「ZE~R○~」とかやっている。
「あぁ~ん? なにいってんだ~? お前。垣間見えてねえどころか最高の見せ場があったじゃねえか~。体中光らせるわ、お姫様抱っこで救出するわ、ライバルである俺ですら嫉妬するほどにいいとこ持っていきやがって……くそっ」
ギリギリと歯をきしませながらクロバに詰め寄る親分。
「ち、違うんです!あ、あれはですね」
頬を再びりんごのように紅潮させたアイが必死に弁解しようとする。
そこへマスターがずっしりとしたピッチャーとジョッキを運んでくる。
(ズン……ッ!)
「ふぅ~。はい、おまちどおさま。コラーにレスカに濃厚みるくね。あんたたち明日も学校でしょ? こんな時間まで出歩いてていいのぉ?」
「いいんだよぉ~てか明日は新しい休みだろ?なんだっけ?えーと……幻の○地の日?」
「『
昔を懐かしむように明後日の方角を眺めるマスターもといママさん……ですかね?おネエさま?
「そうそう、幻想界とかと地球が同盟を組んだ日? だっけか。そんなわけでまだまだ遊んでられるってわけよ! ほらほらママ?も飲もうぜ!」
しょ~がないわね~、なんていいつつもノリのいいママは表に「おしまい」と書かれた看板を出すとアイとコブンズの間の椅子に腰を下ろした。
「姐さんグイッと言っちゃって下せえ!」
さっきまで元気に騒いでいたコブンズもおねむの時間が迫り、唯一生き残ったコブンAが誰も手を付けていなかったレスカをママ?に差し出す。
「あら、ありがとう。んぐんぐんぐ……ぷはあ~っ仕事終わりの一杯ってたまんないわね~」
「お! いい飲みっぷりだね~! さすが飲み屋の店主だッ! ささ、グイッといってくれ」
――――1時間後。
「は~久しぶりに飲んだわぁ~」
って言ってもただのジュースなんですがね。
ちなみに今はクロバとアイにすっかり出来上がったママを加えた三人で談笑していた。
すでに夢の国へ旅立った親分とコブンズは椅子ごと端に追いやってある。
「あ、あの、長官。明日のお仕事大丈夫なんですか?」
急におっさん臭くなったママにアイが違和感のある声のかけ方をする。
「ん? なんだ、あんたら知り合いだったのか?」
「あ……」っとばつの悪そうな顔をする女子高生アイ。
「まあねん♪ クロバちゃんにお話もあったからちょうど明日くらいに訪問しようと思ってたとこだしいいでしょ」
ママが空になったグラスを軽くゆするとカランカランと氷が涼やかな音色を奏でる。
「なんだなんだぁ? こいつらといい、最近ウチはパワースポットにでもなってんのか?」
「まあ力を求めてって意味ではあってるわねん、ご利益はなさそうだけど。あ、ちなみにアタシの名前は乙姫。おとひめちゃんって呼んでね♪」
名刺を差し出してくる乙姫に対し「おっさんじゃなくてかわいい女の子だったらなあ」とか思っていたクロバだった。
が。
肩書きを見て定評のある目付きの悪さをさらに鋭くする。
「……へえ。天下の伝説対策局の¨局長¨さんが自らオレ様に用ねえ」
「そぉなのよぉ~。¨盗賊¨のクロバちゃんじゃなくて¨桃の家系¨であるあなたにぜひお願いしたいことがあるのよぉ~」
警戒心を剥き出しにしたクロバと乙姫の周りにピリピリとした空気が流れる。
そんな中、この人一応まじめな会話もできるんだなあ、とか呑気に考えながら飲み物をちびちびしていたアイが上目遣いに彼らを観察していると
「ちょうどよかった」
と、クロバの視線がおっさんから自分へと移ってくる。
そして、その視線は前髪のカーテンの奥を透かし見るようにして・・・・・・
「オレ様の方も聞きたい事が出来たところだ」
話がこちらに飛んでくるとは思わず油断していた為、いつも以上に顔を赤らめ小さくなっていくアイ。
その視線に気付き、はぁ・・・・・・と深いため息をつく乙姫。
「・・・・・・やっぱりあの光はアイちゃんだったのねん」
「ご、ごめんなさい、あの時はその……」
「大丈夫よぉ。あなたが理由もなく力を使うはずがないもの。無事でよかったわ」
そっと頭に置かれた手に少し緊張をほぐされた様子の¨一つ目少女¨。
「けっ、無事どころかオレ様があやうく消されかけたんだ、がっぽり慰謝料請求してやるからな、長官殿?」
椅子から立ち上がり距離を取りながら拳を握り締めて構えをつくるクロバ。
「やあねェ~。だから今回は¨盗賊¨には興味ないって言ってるでしょ~」
もおやだァ~、とおばちゃん臭い仕草で手をお辞儀させる乙姫長官。
が、クロバが構えを解くことはなかった。
「んなこと信じられるか! 警察なんてのはいつだって汚ねえ手で利用したりしやがる連中じゃねえか!」
と、座っていた椅子を乙姫向かって蹴り飛ばす!
背もたれの部分が当たりそうになりキャッと床に身をかがめるアイ。
「んもう、お行儀悪いんだから」
パシッと飛んできた椅子を乙姫が掴んだ。
――――次の瞬間。
下から昇ってきた拳が、顎への一撃を避けようとして後ろに身を引いた乙姫の鼻の先をかする。
大人の余裕をかましていた表情が一瞬にして苦虫をかみつぶしたような顔になり、さらに¨漢¨の表情に変わる。
「おらっ!もう一発だ……っ!」
そこへ流れるようにクロバの回し蹴りが相手の顔面めがけて叩き込まれる・・・・・・っ!
アイが思わず顔を背けキュッと目を閉じる!
・・・・・・
・・・・・・
・・・・・・
が。いつまで経っても不快な振動がアイの耳に届くことはなかった。
恐る恐るアイがその大きな瞳を開いていく。
蹴りは届いていなかった。
リーチの問題ではない。
乙姫が顔に至る寸前、手で止めているのだ。 が。
顔の直前で威力を殺された。いや、当のクロバはまるで時を止めたかのように触れた感覚すらない。
流石に神経の図太いクロバも驚きの表情のまま固まってしまっている。
乙姫の¨漢¨の表情でにらまれたクロバは全身にぞくり、と何かを這わされた気分だった。
が、いきなりフッと肩の力を抜いて、張り積めた雰囲気を解いた乙姫に戸惑いを隠せないクロバとアイに
「まァ、今日は楽しい席だったしね。また明日落ち着いてからお話ししましょ? ね? ク・ロ・バ・ちゃん?」
毒気を抜かれて、がくん、とその場に膝から崩れ落ちるクロバにアイが駆け寄る。
まだ何かが体を這う感触は抜けないでいた。
「……ひうっ! ごめんって! かぁちゃんもうしません!……むにゃ?」
そんなシリアスな空気を壊すように、今の騒ぎに驚いて突如がばちょっ!と身を起こした寝ぼけ眼の親分。
辺りを見回して、大きな独り言に驚き緊張の糸の切れたアイ、クロバ、乙姫と目が合うと安心して再び夢の世界へと帰っていった。
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