ドドンッ!と登場!クロバ様と愉快な仲間たち!


チチチチチ……

 紅い陽が差すにはまだ少し早い、奥様たちが優雅なティータイムを過ごしているそんな頃。小鳥たちのさえずりがさえずる閑静な森の中。


(ざ、ざ、ざ、ざ、ざ……!)

 今日はいつもと違い、複数の足音が場違いなメロディを奏でていた。


……て

待……て……

…………マ……え


(……どどどどどどどっ!!)


「魚おおおおおおお、いや、うおおお、うおおお、うおおおおおおおおおおっ!!」

「ひいいいいいいい! なんなんだ、あれは! 兄貴いいぃ! 俺たちどうしたらいいんだよおおおおお!」

「「「兄貴いいいいいいいい!」」」

 かわいい子分どもが前を行くオレをすがりつくような目で追ってくる。

「ざけんなっ! 誰がかわいい子分だ! ちょい役どものくせに勝手にナレーション変えやがって! てめえらはオレ様の優雅なティータイムを邪魔しにきた敵じゃねえか! ていっ!」

 クロバは振向きざまに隠し持っていた石を投げつける!

 が。

 親分はひらりとかわした。

「……っ! あっぶねえな! なぁ~にが優雅なティータイムだ! あ~ん?! 鮭とば片手にジンジャーエール呑みながら競馬新聞読んでる奴のどこにそんなお嬢様テイストがあるってんだっ!」

「「「そうだそうだ!!」」」

ちぃっ! そんなことよりも本っ当なんなんだ! アレは!


――――話は三十分ほど前にさかのぼる。

 

 街から少し離れた場所にある山の中。

 人が通る道から「森です、虫です、入りたくないです」と女の子が言いそうなほどに木々が自己主張を強くする方へとしばらく進んで行く。

 すると今度は逆に星空観察会でもしたら女の子とドキドキできそうな開けた場所へとでる。そこには斧を落としたら精霊でも出てきそうな大きな湖があり、水上に一つのログハウスが立っている。

 オレ様がせっせとせしめ……もとい働いて貯めた金で和の匠に作らせたマイハウス兼アジトだ。

 家から岸へと続く階段代わりのはしごを下りると、木のベンチが置いてあり日向ぼっこには最高のスポットだ。

 そんなわけでオレ様が静かな湖畔で、いつもどーり仕事終わりの一杯を楽しみながら、いつもどーりマツリダワッショイから流し、いつもどーり「……オレ何やってんだろう」とはしごに手をついてこうべを垂れていると……


「おうおうおうおうおう! あ~ん? クロバ、あぁ~ん?!」

「「「あ~ん?!」」」


 2m近くあるだろうか。下駄に切れ目だらけの学生服、口には草を加えたオールドヤンキー風の男が近づいてくる。おそらくこいつがリーダー格だな。

 その男の後ろから、子分だろうか、3人ほど取り巻きの男たちが続く。

「……あ~ん?」

 別に一人だけ寂しくなって真似したわけじゃねえぞ?負けが混んでる時にカラまれりゃこんな返事もしたくなるってもんだ。

「……そんで? なんの用だ」

「お前最近ウチのシマでブイブイ言わせてるらしいじゃねえか。あ~ん?」

「「「あ~ん?」」」(ずいっ)

 一歩踏み出してくるオルドヤンキーズ。

「知らん」

「そして最近結構儲かってるらしいじゃねえか。あ~ん?」

「「「あ~ん?」」」(ずいっ)

 さらに一歩近づいてくる。

「……この惨状を見て喧嘩売ってんのかてめえは」

「三日前に素敵なお宝を手に入れたそうじゃねえか」

 ニヤニヤといやらしい顔で覗き込んでくる。

「……知らん(ふいっ)」

「「「あ~ん?」」」(ずずいっ)

「あんっあん、うるせえよ! 近付いてくんな! そんでリーダーがあ~ん? って言わなかったから一瞬迷ったんだろ?! だから遅れたんだろ? あ~ん?!」

 おいっ音響! 聞こえてんだろ? ミュートだミュートっ!

「……何言ってんだお前? あ~ん?」

「「「……」」」(ずずいっ)

「近付くのもやめろっつってんだよっ! マテ!」

「「「……」」」(ぴたり)


……よし。では改めて

「そのお宝がどうしたって?」

「とぼけんじゃねえぞ! 今、目そらしたじゃねえか! お前がナリキン屋敷で手に入れた『アカシアの紙片』のことだよ! あ~ん?!」

「はあ?」

 オレ様はめんどくせえとは思いつつも腕を組んで頭をひねり最大限に考えてるフリをしながら三日前のことを思い出してみる。

「……ああ、あのきったねえ紙のことか。たくっ! せっかく女中の着替えほっぽり出してまで手に入れたってのによお~! 箱開けたら紙切れ一枚だぜ? 偉人さんの絵でも描いといてくれりゃまだよかったのによお~そういやあそこに入った新しい女中がよお……」

「ええい! そんな話はどうでもいいわい! ……いやそれはまた後で聞くとして。その紙切れをこっちに渡してもらおうか! あ~ん?!」

 聞きたいんじゃねえか。

「それがよお、なんか消えちまったんだよなあ。「あ~腹減ったな~」っていったらラーメンとかケバブとか俺様の好物がわんさか出てきてよお~! ご丁寧に栄養偏んねえよおにサラダとか食後のデザートまで出てきやがった! ありゃあ美味かったなあ~」

 オレ様はその時のことを思い出して思わず垂れたよだれをぬぐう。 


(ちゃぷん……)

ん……なんか今音がしたような。

まあいいか。


「な、な、な、なんだとおおおおおおおおおおおあ~ん?! お前アレが何か知らねえのか?! あんあんあ~ん?!」

「どら○ーもん」

「歌うな! 俺が恥ずかしいだろうがっ! あれはな……っ!」


(ざざああああん……)


「「「……っ!!」」」

 と、さっきからオレ様の目の端でガサガサやってやがった取り巻き達が、ミュートがかかってるにも拘らず懸命に何かを主張してくる。

 

 ……トイレか?


「なんだよ、もう終わるムードだろうが、少しくらい黙ってらんねえのか」

「おなかすいたのか? あ~ん? これ終わったらヒデん家のラーメンでも」

「「「……っ!!」」」(ぶんぶんぶんっ)

 まったく心をくみ取ってくれない親分と敵に対しても必死に何かを伝えようと後ろを指さす。えらいねーオレ様だったらこんな上司ほっぽって警察かおーじんじに電話するがね。


 と、いきなり空が暗くなった。


 そして取り巻きボーイズの想いが通じたのか、オレ様達が上を見上げると


「「……は?」」

「「「……っっ!!!」」」


 バキバキバキ……っ

(ずずううううん……ッ!ずずうううううううん……ッ!)


 そこにはオレ様の家をレッドカーペット代わりにした三メートルを超える『化物』が湖から上陸されるところでした。



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