ドッキドキ裁判と欲にまみれた生活!


 しん、と静まり返った教会。

 ステンドグラスに描かれた神や天使までもが女の敵を非難するかのように、ヴェールを被り純白のドレスを身にまとった女神のような少女の声を反響させる。



「え、えええ、エッチなのは、いいいいけないと思いますッ!!!!」



 ……。

 ……。

 ……。



 ――――その場にいた全員がクロバへと非難の目を向ける。



「ざっけんな! やってねえっていってんだろ! しかも、なぁ~に人様の罪状を増やしてくれてんだ、へっぽこ女神!」

 納得いかん、と自分の前に置かれた「ひこくせき」と書かれた段ボールを思い切り踏みつける。

「ああっ! 私が小学生の時に作った「ひこくせき君2号」が!」

「うおっ」

 女神さまの威厳もへったくれもなくバタバタと「ひこくせき君2号」へと駆け寄るバタ、ではなく少女。

 クロバの足をせいや!とドかすと、少女は神が救いの手を差し伸べるように箱の内側へ手をスッと差し入れグッと伸ばす。

 そして「ひこくせき」と「3-3あけなめあい」の文字が消えていないことを確認するとホッと息をつく。服装を正して今度はお上品にしずしずと祭壇の前へと帰っていった。

 大声をあげて叫んだり、自分の作品を足蹴にされて取り乱しても、まだ一応女神さまで押し通す気でいるらしい。

「おお神よ……あなた様のご加護のあらんことを」

 そっと目を閉じて、神に向かい祈りをささげるひとつ目の女神さま。


 

 ――――そんな彼女に代わり今度はロザリオを手にしたシスターがこちらへ歩いてくる。

「なんじ、罪を打ち明け懺悔しなさい。さすれば神もあなたの罪をおゆる」

「うっせえ! 俺が何をしたってんだよ! 早く話せっつうんだ! 大体てめえはじゃなくてだろうがこのカマ野」


 ざぱーっ!


 天井につるされたバケツから水が降ってきた。

 びしょぬれのまま両手を見つめて呆然としているクロバに


「死刑」


 乙姫はたったひとことだけ告げると、首の前で親指を立ててスーっと横へ『切り』、そのまま手をくるりと逆さにして縦に『切る』という新しい形の十字切りを披露する。曰く、『ごーとぅへる』。

 モデルがファッションショーを歩くかのごとくスッスッと乙姫が踵を返そうとすると首元にびしょびしょの手がかかる。


「あ……///」


「気持ち悪い声出してんじゃねえ! いい加減にしろ! コントの撮影してんじゃねえんだぞ!」

 ガルルルルッと胸倉をつかみあげるクロバ。

「もぅ~ノリが悪いわねえ」

 と二人が揉めているのに引き寄せられそれぞれの仕事を与えられていたたちが集まってくる。

「いや、俺らもいい加減飽きてきたとこだぜ、あ~ん?」

「足疲れた~指ぷるぷるする~」

 親分とコブンAが明るいのに雰囲気のためと持たされた燭台とろうそくをもってぶつぶつ言いながら歩いてきた。

「水かかったっす……。」

「あのバケツおっもーっ! 手に紐のあとがついたって!」

 見て見てーと両手を突き出してアピールするBに、見て見てーと肩と頭を見せつけ返すCもこちらに向かってくる。

「さあ吐け! いますぐ吐け! オレ様が連続少女誘拐犯ってのはどうゆうことだ!」

 ガクガクとクロバにゆすられていた乙姫だったが、やがて観念したように

「わかった、わかったわょ、んもう。最近の子は本当根性ないわねェ」

とクロバの手を振り解く。

 まだワイワイと騒いでいたコブンたちを授業中の生徒を律するようにキッと目で殺す。親分がこづいたのを見届けるとクロバたちへと背を向けて、意味深な雰囲気をつくり、ぽつりと語りだした。



「実はね……私の妹が誘拐されたの」



「あ~ん? 妹? 妹がいたのか、あんた」

「そぉなのよ……私に似て可愛い可愛いお人形さんみたいなコ、ピッチピチの15歳……お肌の水もはじくお年頃……」

「はぁ~なるほどな。そいつは大変だな」

 クロバが珍しく真顔で何かを考えるように腕を組んでいる。

「……アンタ、意外といいやつなのね。犯人として疑った私の家族の心配をしてくれるなんて……」

 あたし惚れちゃうかも、なんて目元を拭うおネエに

「だってよ、お前に似てんだろ? てことは当然ゴツい顔したゴリ」

「そ・お・よ・ね・え? アンタはそ・お・ゆ・うヤツだった、わ!」

 ぎぎぎぎぎーっと両頬をの腕力で思いっきり引っ張られるクロバ。

「ひへへへへっ! ほほやおうっ!」

 お約束をかましたアホを全力でねじ切るつもりでいた彫りの深い引き締まった漢顔のおネエは、仕事を思い出して苦虫をかみつぶすような顔のまま手を放すと

「それ以外にも街で誘拐騒動が起きてるのよ」

 ふう、とため息をつく乙姫。

「それで? なんでオレ様が犯人なんだよ」

「窃盗だとか一通りこなしてる犯罪者なんかこの街にアンタくらいしかいないじゃなぁい。それなら特殊な性癖の一つくらい持ってるかと……」

「ねェよっ! オレ様はなぁ! バインバインのねーちゃんからしか興味ねえんだよ、誰がガキなんか相手にするかっ」

 ふんすっ!と鼻息荒く怒りを露わに力説するクロバ。

「そうっす! 兄貴は人妻と発育のいい妹モぐふっ?!」

 後ろから降ってきた人妻&妹萌えの拳骨に口を無理やり閉じられるコブンC。

「け、オレ様にはなんの関係もねえじゃねえかっ! お前本当に警察のお偉いさんなのかぁ?! 帰る」

 入り口へと向かって歩き出すクロバ。

「ちょっと可愛い女の子たちが今もどこかで恐怖におびえているっていうのにどこいくつもりよ! この人でなしっ!」

 そんな乙姫の挑発にもピクリとも歩みを止めようとはしない。

「大体アンタどこに帰るのよ、家もなくて留置所に泊まるようなやつが」

一瞬ピタと足を止め顔を赤くしてプルプルしていたクロバだったが、シリアス顔に戻しドアノブに手をかけたその時。



「――――懸賞金は何億ベリーくらいでしょうかね」



 突然、祭壇の女神からそんな声が飛んでくる。



「その子たちのお姉さんやお母さんや取り囲まれてお礼にと、お食事に誘われたりデートに誘われたり。さらには街の女性にだってモテモテでしょう」

 


 クロバは扉の前で、はやく帰ろうぜブラザーと囁く心の悪魔と自らの足を待たせてぴくぴくとその言葉に耳を傾けている。



「連続少女誘拐犯ともなればもちろんお金持ちのおしとやかなお嬢様だってターゲットのうち。むしろ攫いやすくて富をもたらす格好の的」



 カツンカツン……と祭壇からおりてきた一日女神さまは、そういえば居たっけと複雑な表情で出迎える乙姫たちを無視して通り過ぎると、両手を広げ天を煽るようにさわやかな笑顔でさらにこう告げた。



「そうなれば懸賞金はおろか、お金持ちのコネまで出来て一生遊び放だ」

「アァァァァメン! 神はオレ様を見捨ててはいなかったのですね! 参りましょう! 天使たちのもとへ」

 クロバは女神に向かって即座に祈るように跪いた。



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MEGA!目が?!~クロバ様と語らない勇者ご一行様!~ 銀星 @ginsei

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