フルダイブ型VRMMORPGの実現可能性を考える。
阿井上夫
フルダイブ型VRMMORPGの実現可能性を考える。
とある作品を自分で書いていて、気になったことを以下に書く。
結構身も蓋もない話をするので、VRMMORPGに関する夢を壊されたくない方は、これ以降を読まないほうがよい。
*
さて、私は現在「フルダイブ型のVRMMORPGで、仮想現実空間上のアバターとして迷宮を探索する」形の小説を執筆している。
その技術的背景を考えていて、行き詰ってしまった。
実際にフルダイブ型のVRMMORPGを実現するためには、「外部からの電気的な刺激により、大脳内に五感すべてを再生する」技術が必要となる。
そして、五感のうち「聴覚、触覚、嗅覚、味覚」の四つについては、外部からの電気的な刺激によって大脳内に生成されるものに、個人間でさほど差異は生じないから実現可能だろうと、私は考えた。
触覚から派生した痛覚なども、まあ実現可能だろう。
しかし、視覚だけはかなり難しいのではないだろうか。
単純に「電気的な刺激により、大脳内に視覚情報を生成する」やり方が可能だとする。
しかし、それによって生成される視覚情報では、決して個人が保有している記憶の範囲を超えることが出来ない。
分かり難いので、もう少し具体的に説明する。
西洋の城砦を見たことがない日本の城マニアは、VRMMORPGで「城内」のイベントがあった場合、ノイシュヴァンシュタイン城ではなく姫路城を参考にしながら、その情景を再生することになるだろう。
何故なら、彼の脳内には西洋の城砦に関する詳細情報がないので、西洋の城砦風の視覚情報を生成することはできないからだ。
さらに、お城を見たことがない者にとっては、意味不明なイベントになる。
例えば、こういうことである。
「ニュルダイのサドシオを右手に持って、ランダイの攻撃をバルオシで避ける」
この文章の具体的なイメージを、隣の人と共有できるだろうか?
それでは、フルダイブ型のVRMMORPGで「参加者全員が共通の世界観を共有し、それを前提とした行動をとる」ためには、一体どうしたらよいのか。
それを可能にするためには、「その世界観に関する詳細情報を、事前に個人の大脳に対して書き込んでおく」必要がある。
建築資材がなければ世界は作れない。
だからといって、昔のゲームマスターのように「膨大な設定資料やマニュアルを事前によく読んで勉強しろ」というのでは本末転倒だ。
だから、体験していない仮想の視覚情報を大脳に書き込むことができる技術が前提になる。
ところが、これはかなり危険な技術である。
なにしろ、脳に直接書き込むのだ。
宗教思想や数学概念の書き込みまで出来るとは思わないが、視覚情報の書き込みだけでも十分洗脳に使えるだろう。
間違いなく軍事機密になって、民用には使われまい。
この一歩手前の段階として、フェイスマウントディスプレイにより、網膜から視覚情報を取り込む形でのVRは考えられる。
ただ、大脳に直接働きかけない形のVRMMORPGだとすると、全身タイツ状の触覚フィードバック装置も不可欠となり、広義のフルダイブと呼べない代物になる。
最後の手段で、映画『アバター』のように、全身をフィードバック用の棺(ポッド)に入れてみる。どうだ、文句はあるまい。
残念ながら一般家庭に普及しないがな。
*
以上の点を上手く、論理的に回避しているVRMMORPG小説を、私は寡聞にして知らない。
認知心理学の研究論文にも思い当たるものがない。
私自身も、与太話すら全く思いつかなかった。
ご存知の方がいたら、是非教えて頂きたい。
また、これから技術的に可能になるかもしれないので、VRMMORPGを全否定するつもりはさらさらない。
しかし、近未来では無理だろう。
少なくともスマホと共存可能な技術ではない。
にもかかわらず、以上の問題が解消されない状態で、恥ずかしながら私もまた「フルダイブ型のVRMMORPGが、近未来で実用化された世界」という前提を採用することにした。
でないと書けないからだ。
フルダイブ型VRMMORPGの実現可能性を考える。 阿井上夫 @Aiueo
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