好(よ)き闇が、ここにーー

『闇』。それは人の心の不安を喚起する。
闇は概ねにおいてネガティブであり、単純な二元論のもとでは『悪』のレッテルを添付される。

『左団扇奇譚』の世界も闇を基調とする。
人間のエゴが、狂気があり、妖魅の影が至るところに差す。
しかし。その闇は透徹としており、不思議に読む者の心に染み入る。
これを「心地好い」というのである。

主人公らは飄々としており、あくまでポジティブ。闇のステージで生き生きと躍動する。まるで自らの中の闇までエネルギーとするかの如くに。
幻想、怪奇、そして耽美なる趣のめくるめく一時が、この物語にはある。

ああ、心地好い。

未だ読まれぬ人あれば、一読これ お薦めしたい。たちまち音叉氏の術に蠱(まじこ)られ、一気に完読されるであろう。

『左団扇奇譚』は、あなたの心の『明るき闇』なのでーー

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左団扇奇譚

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