かつて世界に災厄をもたらした恐るべき古代兵器『鉄女神(マルドゥーク)』。それを擁するアル・カマル皇国では、皇位継承争いが起きていた。第一皇子イダーフに対し、異母弟ルシュディアークを推す皇女イブティサーム。ところが、イブティサームは殺害され、ルシュディアークは「魔族」になって義姉を殺したという罪を着せられてしまう。
冤罪の訴えも虚しく処刑されることになったルシュディアークのもとに、イダーフの使者が訪れる。アル・カマルの鉄女神を狙う二大国の一方に、同盟を申し出よと言うのだ。国を追われた皇子は、故国を戦乱に陥れる陰謀に巻き込まれるーー。
西アジア(アラビア)風の世界で繰り広げられる物語です。
十代の皇子を巻き込む国家規模の陰謀に、家族間の葛藤。古代文明とロストテクノロジー、それらを護り伝える人工の存在と、伝説、血族などがからみあい、壮大な群像劇となっています。皇子の身分を喪い、魔族として扱われ、彷徨いながら成長していくルシュディアーク(ルーク)の行く末に、注目しています。竜、キープを運ぶ隼、ベドウィン、描かれる風俗も素敵です。
アラビア風の異世界ファンタジー、ロストテクノロジー、十代少年の成長譚、貴種流離譚がお好きな方に、お薦めします。
"児童文学とSFを掛け合わせた小説"と聞いてました。実際に読んでみて一言言わせていただくなら、"丹念に熟成された深い味わいのある物語"です。
主人公のルークの、何者でも無くなったところから冒険が始まり、戦いや仲間、敵との邂逅の中で"自らの存在"や"何と戦っていくべきか"について考えていく、成長していくという積み重ねの面白さが感じられました。
葛藤、成長の過程、旅の中で触れていく史跡や歴史、神話といった文化的なものを所々に取り入れているためか、読んでいくうちに"自分もこの世界を冒険している"そんな気分になります。
その"読むという冒険"の中で、歴史は人の思いがぶつかり合って紡がれていく事を、読者(言い換えれば、鉄の翼の世界に冒険にやってきた人)に教えてくれます。
ファンタジーの中に、息づく人びとの暮らし。
ルークの旅路の中で、目に触れる景色、出会う人びと。
何気ない一コマにも、その土地で、国で、生きる人の息吹を感じます。
作られた物語よりも、まるで旅の記録、国の歴史や、情勢を見るようで。
拝読していると、垣間見えるのは、広大な国土の様子と共に、
そこに住む、一人一人の存在です。
国を描きながらも、細部にまで隙のない描写は、住む人間の存在さえも、描き出し、
読む者を惹き込みます*
ルークとイスマイーラの緊迫した会話に、息を飲みます。
誇りと怨み。 戦いに向かうとは、どういうことか。
イスマイーラの想いは、過酷な中を生きた者の、ある種、
真実ではないかと、思えます。
一声かけたらという彼、
思わず笑いました* 二人の関係は、味わい深く胸に染みます*
また、自身を振り返り、想いを巡らせる、ルークもまた、素敵です*
ルークとして生きるか、ルシュディアークとして生きるか。
考えさせられました。
アルルとウィゼル、アリーの場面も驚きました。
アリーのこと、その考えも、
ありえると思えます。
人と竜。
それはまた、
人の弱さ故にでしょうか‥*