ミステリーを愛する全ての人におすすめしたい作品

【物語は】
ある事件現場から始まる。ある人物の記憶の一部によって。書き出しから凄く引き込まれる本格派ミステリーだと感じた。本編に入ると、情景描写などから入り、推理モノ、サスペンスもののドラマの1場面を想像させる、あの『警視庁』が出てくるのだ。少し硬さを感じる作風が、ミステリーらしさを醸し出し読者の心をぐっと掴む。特に冒頭の日付や時間の記載は、もうそれだけでワクワクしてしまう。ミステリーというジャンルへの期待を充分満たしている作品だ。しっかりと情景描写、行動描写、人物描写が書き込まれており、必要な情報が分かりやすくスラスラと読み進められる。ここで、設定の時代の世界観が分かって来るのだが、それは必然性で作られている為、理解しやすく納得しやすい。単に技術が進んだという理由ではなく、安全のためというのも納得だ。あらすじには、『連続殺人を史上最速のハイスピードで解決に挑む』とある。この主人公は、恐らく通常ではない方法で事件に挑むのではないだろうか?とても期待が高まる。

【物語の魅力】
まず、事件ものに魅力を感じる人の重視している点というのは色々あると思う。事件そのものに面白味を感じる人、なぞ解き部分に魅力を感じる人。推理に対しての思考に面白味を感じる人など。その中で、自分が一番興味を持つのは、動機である。『何故、そんな理由で』という事件は後を絶たない。しかし現実社会であれば、追い詰められてしまい、それが事件に繋がるというのは心理的に考えても、納得はいく。事件もののフィクションというのは、何故かそこにリアリティを置いても納得できない場合があるのだ。犯人の方が理不尽なのではないかというものも多くある。その中で、この物語はもしかしたらその動機について、重点を置き描かれているのではないだろうか。
安全になったはずの日本で、それでも事件は起きる。その性質がどのようなものか、作中で語られていく。推理モノでもあるが、登場人物の設定がしっかりしており、ヒューマンドラマ要素も含んでいると感じた。

【登場人物の魅力】
主人公は、ある事件が元で復讐心を抱き刑事になる。しかしながら、どんなに憎しみを抱えたまま生きていたとしても、笑うこともあれば喜ぶこともある。例えそれが心からではなかったとしても。主人公には、そう言った意味でとても人間らしさを感じた。知り合いに再会すれば喜ぶ、悔しさを感じることもある。登場人物、一人一人がとても人間らしく感じるところに凄く魅力を感じる。事情により騙されるという場面もあり、淡々としているわけではない。ミステリーものはどうしても登場人物が多くなってしまう。それはジャンルの特性上どうしても起きてしまうことだが、この物語は一場面に複数が登場しても混乱することがない。恐らく、無駄なセリフは省いている為だと思われる。決してセリフが少ないというわけでもない。とても書き方が巧いと感じた。

【世界観等について】
この物語は、犯罪者予備軍にマークをつけるというオリジナル要素が盛り込まれている。どうやって決めるのかについては別として、確かに犯罪を起こしそうな人が判れば安全であるという考え方は理解できる。しかし、彼らはあくまでも予備軍であり、犯罪者ではないという事。人権は尊重されなければいけないし、予備軍だからと言って、偏見があってもならない。偏見から始まる犯罪は、現実でもに起きている。このバランスはとても難しいと思われる中、もちろん作中で人権について触れている。そういういところからも、世界観に対してのリアリティを持たせていると感じた。

【物語の見どころ】
この物語の最大の魅力は、世界観に対するリアリティ部分。ザッと小タイトルを見た時に感じたのは、犯罪予備軍が判るという事は無差別殺人などで犯人が特定できない場合には、容疑者が増えるという可能性を示している。これはプロットや構成としてとても面白いのではないかと思った。この、犯罪予備軍がどうやって決められているのかも、もちろん作中にて丁寧に描かれている。この物語には、語りつくせないほどの魅力が詰まっている。

せひ、お手に取られてみませんか。
ミステリー好きの方はもちろん、事件の在り方に興味を持たれている方にもおすすめです。ミステリーは難しいけれど興味があるという方にもおススメですよ。

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