先日、短編SF「ペンギンは火星で眠る」を投稿しております。
こちらは秋待諷月さん企画の「 ペンギンSFアンソロジー」の参加作品となります。
相変わらず「SFってなんだろ?」と思いながら書いた短編です。坂水さんの「SF=センチメンタル・ファニー」というのがオイラ的にはしっくりきたりするのですが。それはともかく。
今回の短編、上限1万文字に対して例のごとくオーバーして1.5万文字でいったん書き終わり、さてさてと1/3を削除する作業をする訳です。半分近くサヨナラですね、うん、心の中で「1/2は削るぜ」と思って推敲しないと規定数に届くわけがなく。
この推敲作業、ずっと自分の作品と向き合いますので、だんだんと「これのどこが面白いんだろ?」と思ってくるわけです、ずっと見てますからね、うん、もう訳が分からないよ、僕と契約して魔法少女になってよ――それはともかく。
そんな感じで自分でもよく分からなくなったこの作品、奇特な読者様(いつもありがとうございます、愛してます)によりますと、「ホラー」「え、怖い」と頂いたり(ありがとうございます)、母と娘、父と娘の関係性に感想を頂いたりと本当にありがとうございます。思った以上にいろいろな角度・視点からこの作品を読んで頂けているのだなぁと思い。ただ、個人的には1つだけ心残りがありまして(本当はもっといっぱいありますが1つだけあげるとすれば)。それは中盤の山場のところです。
主人公の「私」は生まれてすぐ母親と死に別れたため、ハウンゼル夫妻、リアム兄さんに育てられ・見守られながら生活していたのですが、実は推敲で削除する前はここに「ステファンおばさん」も見守り隊として存在していました。なんかクッキーを売っていそうなおばさんネームですが、10歳から15歳まではステファンおばさんが面倒見ていた設定でした。でも文字数の関係で泣く泣くカット、確かにいてもいなくても本編には全然関係ありません。しかし、〝繰り返しの怖さ〟ということでは、本当はハウンゼル夫妻ふたりだけでなく、ステファンおばさんも含めて〝3人〟の台詞を続けさせたかった。でも文字数が溢れたの最終的にカット、うん、悔やまれる。それはともかく。
このままではステファンおばさんが浮かばれないので(そしてオイラも悔しいので)、推敲前のステファンおばさん登場シーンを奇特なあなたに特別にお送りして今回は終わりにしたいと思います。
推敲前の一部分ですので、誤字、脱字、文脈の間違えなどはご愛敬ということでお許しください。
それでは、どうぞ。
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とにかく、精密に計算されて寸分の狂いもなくがっしりと組み合わさって回っていた歯車が、少しずつ少しずつ歪んでいき、それがいつか大きなひずみになるような、そんな漠然とした不安があった。だから私は確かめたいんだ。けれども――、
「やあ、こんな時間からどこに行こうっていうんだい?」
玄関の扉を開けると目の前にリアム兄さんが立っていた。いつもと同じ爽やかな笑顔を向けながら、扉に手を当て私の行く手を塞ぐ。タイミングが良すぎる、私が睨み付けるとリアム兄さんは肩をすくめた。
「ごめんリアム兄さん、私いま急いでるの」
「駄目だよ、この敷地から外に出ることは中央制御センターに禁止されてるよね」
リアム兄さんが一歩踏み出す。それと同時に夜時間が訪れ、オレンジと紫の中間の色をしていた人工天空が薄闇色へと切り替わる。私たちを照らす空が消え、リアム兄さんの顔に影が落ちる。横に広がる口端が吊り上がり、黒い顔に笑った口だけが浮かび上がる。
「新しい服を手に入れたのかい。とっても似合ってるよ」
黒い顔から零れる声がまったく変わらないことにゾッとした。刹那、私は小さく屈むとリアム兄さんの腕の下を潜って外へと転がった。
「いい子だからお家に戻りなさい」見上げるとステファンおばさんがいつの間にか立っていた。
「どうして腕時計を外した?」ハウンゼルさんも見下ろしていた。
「みんなでマカロニグラタンを食べましょう」ハウンゼル夫人が手を叩く。
「僕が呼んだんだ。最近、様子がおかしかったからね。慣れない一人暮らしで疲れてたんだろうね」後ろから近づいてきたリアム兄さんが私の腕を掴んで引っぱり上げた。「僕たちが常にサポートするよ。君は助けが来るまでここで待っているだけでいいんだ」
二の腕にリアム兄さんの手の感触が伝わる。それは、力強くて痛くて怖くて、そして――冷たい。
どうしてそれに気づかなかったんだろう。ううん、違う、私は初めから知っていたけども、さっきコウテイに触るまであえてそのことを考えないようにしていたんだ。
「リアム兄さん」私は彼の手を振り払って正面を向いた。
「洋服を褒めてくれてありがとう」
「ああ。今日は一段と可愛く見えるよ」
「それもおんなじ――リアム兄さん、私、この服、昨日も着てたよ」
「………………」
「それにリアム兄さんの手、とても冷たい。ううん、リアム兄さんだけじゃない。ステファンおばさんも、ハウンゼルさんも夫人も、みんなみんな初めから、手も腕も足も――昔からそう、抱きしめてもらっても温かくなかった。だってそうだよね、人工生物機械の適性温度は30度以下、常にそうなるように冷却されてる。だって、それ以上体温が上昇すると熱暴走しちゃうものね」
外の暗さを感知して家の外灯が自動点灯する。日光のような白い輝きが私たちを照らしたが、リアム兄さんたちの顔には黒い影が下りたまま表情が見えない。代わりにキュイーンという微かな稼働音と共に赤い点が双眸に灯る。闇に浮かび上がる白い家をバックに、リアム兄さん、ステファンおばさん、ハウンゼル夫妻の赤い目が横線を引く。
そう、私は知らなかったんだ。コウテイをホースで縛り上げるまで私は本当の生物に触れたことがなかった、だから、その冷たさが比較できなかった。最初、私はコウテイこそセントラルが送ってきたバイオロボットだと思った。けれども本当は反対だった。
「ごめんね、リアム兄さん。私、中央制御センターに行って確かめたいんだ」
「君はこの家から出る必要はないんだよ? 僕たちは16年、君を保護してきた。そしてこれからもそれを継続する。統一政府から救助が来るまで。だから、さあ――」
彼の手が私の腕を掴む、痛い、冷たい。その強さに思わず声を上げる。ハウンゼルさんの枯れた手が私の頭を抑え、ステファンおばさんの膨れた指が私の脇を掴む。ハウンゼル夫人は手を打ち鳴らしながら耳障りな笑い声を響かせる。彼らの力に押さえ込まれた私は火星の赤土の上にねじ伏せられる。灰のような粉塵が舞って鼻をつく。涙と咳が止まらなくなる。
倒れた私にリアム兄さんが全重量を乗せる。ステファンおばさんとハウンゼルさんが左右から肩を押さえ込み、ハウンゼル夫人が手を叩いて笑う。なにこれ、セントラルは私に何がしたいの!?
必死に身をよじってみたところでバイオロボット4人相手では為す術もない。彼らは私を囲んで家へと戻そうとする。そこまでしてセントラルに行かせたくないの? いや、違う、どうしても私をここから出したくないの!?
「放してー!」私は6つの手を払いのけようとしたけれど、腕の一本すら動かすことが出来ない。無理やり立たされて、否応なく家へと引っ張られる。
何も知らずに閉じ込められたままなんて嫌だ、どうすればいい? 何が正解? こういうときどうするんだろう――コウテイなら。
刹那、私の体の奥からキーンと金属が震えるような音が響いた。それは、音のような、振動のような波となって指の先まで震わせた後、私の中心で1つの形となった、それは――、
『よくぞ、吾輩のことを思い出してくれた!』
私の目の前で光の粒子が弾け、白と黒の物体が形成される。それは美しい流線形になったかと思うと、リアム兄さんの顎を蹴り上げ、ハウンゼルさんを張り倒し、ステファンおばさんに頭突きした。瞬く間の出来事に拍手を止めてしまったハウンゼル夫人に代わって羽で拍手をした後に尻尾で夫人を弾き飛ばした。
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