今度の作品は「不倫の愛」をテーマにしている。物語の進展に伴って、ラブシーンは必要となるだろう。
ところが、書けば書くほど、初めて男女の秘め事を描くのは難しいと思い知らされた。
めくるめく夜を五感に響き、女性の読者にも受け入れられる文章で綴ってくださいと言われても、頭がパニックとなり一向に筆が進まない。どうしたら、良いのだろうか……。
途方に暮れていると、思わぬ援軍が現れてきた。不倫の男女を描く映画の名作だ。
潤った◯◯は男をしっかりととらえ、そのまま久木がリードするというより、凛子が一方的に動く形で奔り出し、やがて「火がつく……」とつぶやき、「灼ける」という声に耐えきれなくなって、久木が果てると、それに誘われたように凛子が叫ぶ。「死のう……」
――渡辺淳一『失楽園』より
やっぱり、上手です。儚くも美しい光景が目に浮かびます。短いやり取りの会話文も胸に染み入ってきます。下品でもなく、いやらしくもない。
そこには、うたかたの愛欲に溺れる男女は描かれていない。たとえ、死んだとしても永久に続くであろう愛に恋焦がれるふたりが描かれていた。女性を泣かせるのが評判となるプロの作家とはいえ、凄すぎる!
ラブシーンを描く秘訣があったら、教えてください。