こんな時は、優しく切ない春のピアノ音楽、ヒーリングミュージックに耳をすませば、小説のヒントが生まれるかもしれません。次回作の舞台となる、山陰の小京都と呼ばれる町を散策してみました。
【津和野の魅力】
駅からほど近いレンタル浴衣店で、ふたりして和装に着替えてゆく。朝露に濡れた石畳の殿町通りを転ばないように歩いたけれど、足元がおぼつかず水しぶきを上げてしまう。「きゃあ」という矯声も彼は笑って許してくれる。
青野山の麓に広がる町には、なまこ壁や白い土塀に囲まれた古い家々が静かに佇んでいる。観光客はまばらで下駄の音やSL列車の汽笛が聞こえてくる。
一方で川沿いの掘割には花菖蒲が咲き乱れ、錦鯉が優雅に泳いでいる。ふたりだけの時間が永遠に続けばいいのにと思っていた。