• 異世界ファンタジー

今年もよろしくお願いします。

 いつも私の作品を読んでくださっている皆様、ありがとうございます。
 さて今回は遅ればせながら新年の挨拶を書こうとかそういうことではありません。単純にちょっと思い付きで書いてみたけど、続きを書く気のない作品をここに乗せとこう。それだけの話です。
 タイトルは『妹が家族に内緒のバイトを始めたようですよ!! ~お兄ちゃんは仮面のエースパイロット~』
 です。

――以下本文――

 最近妹の様子がおかしい。そう思った俺は妹の後をつける事にした。
 学校が終わってすぐに帰る姿は見るのに、家に帰ると妹はまだ帰っていない。しかも門限ギリギリに帰宅。そんな事が何度もあるのだ。
 さらに休日もほとんど家にいない。
 心配になって聞いてみたら「なにしていようとお兄ちゃんには関係ないでしょ」「ウザいしキモいよ、ほっといて」と言われた。
 小学校に上がる前一緒にお風呂に入り、彼女の髪を毎日洗ってあげ、そのお礼に妹が俺の背中を洗ってくれたし、夜中に起こされトイレについて行ったのは小学四年までだっただろうか。
 ホラー映画や心霊特番を見た日に俺の部屋に布団を持ってくるのは中学まで続いていたし、学校に持っていく弁当は俺と妹と母の日替わり三交代でやっている。今だって何でも言い合える仲の良い兄妹だと思っていただけに「ウザい」の一言はショックだった。それと同時に俺に冷たく接する妹は何と尊いのだろうと彼女を俺の妹として配置してくれた神に感謝するのだった。

 さて話を戻そう。そんな訳で妹が何かを隠しているようなので俺は妹の後を追い、彼女の秘密を探る事にしたのだ。
 家とは反対の方向に向かって歩く妹、しばらくして一人のハゲたオッサンが妹に声をかけた。二人でオッサンのスマホを見ている。
 もしかして援助●際か!?
 俺達の通う高校は別にバイトを禁止してはいない。表向きはダメだと言っているのだが、親の許可を得て、学校指定の書類をちゃんと書いて提出さえすれば普通にバイトは可能だ。なので普通にバイトしている奴はいるし、バイト先に教師が来ても何も言われない。
 だけど、うちの両親は「学生の本分は勉強だ。バイトする暇があるなら勉強しろ」との考えのため俺達兄妹はバイトが出来ない。
 それで金に困った妹は体を売る道を選んだというのだろうか?
 あのスマホの画面も出●い系サイトのやり取りの様子で本人か確認しているとか?

「あのハゲ……俺のカワイイ百合香《ゆりか》に手を出したらただじゃおかねえぞ……」

 目にいれてもいたくない俺の大事な妹《エンジェル》の貞操を奪おうとする、父親よりも年上なオッサンに対して俺の殺意がどんどんと膨れていく。

「ねえママ、あそこにあやしいひとがいるよ」
「し、見ちゃいけません。行くわよ、よっちゃん」

 ほら、小さな子供も女子高生に話しかけるオッサンを怪しんでるぞ。ママさんナイス判断です。すぐにあの汚らわしいオッサンから坊ちゃんを逃がしてあげなさい。

「でもあのおにいさん、ずっとあのおねえさんみてるよ、きっとストーカーってやつだよ。けいさつ、けいさつ」
「だめ、ああいう人は何しでかすかわからないの。見かけたらすぐに逃げて。安全な場所に言ってから警察には連絡しましょ」
「はーい」

 ……俺もすぐにこの場を離れた方が良さそうだ。
 そう思い次の隠れ場所を探そうと思ったら、妹が振り向き、道の先を指さした。オッサンは指の先とスマホを交互に見ながら、何かを納得したようで妹に頭を下げて別々に立ち去った。
 あれ、もしかしてただ道を尋ねてただけか?

「あれ、お兄ちゃんどうしてここにいるの?」

 振り向いた拍子に俺の存在に気付いた妹がやってくる。

「あ、いや。ちょっと本屋にマンガを買いに……」
「マンガ? でも本屋はこっちには無いよ?」
「それはほら、アレだよ。今日は風水的に学校から直接本屋に向かうのは方位が悪いんだ。だからこうして回り道して本屋に向かっているんだよ」
「ふ~ん、お兄ちゃんって風水とか気にする人だったっけ? 朝の番組の占いとか全く見てないよね?」
「え~っと、それはだな……」

 俺が占いに全く興味が無いのは妹も知っている。この言い訳は失敗だったな。

「朝の占いは誰がやってるかわからないだろ。でも俺の聞いた風水の人はよく当たるって有名で、アキバの姫だか高田のババだとか言われてる超凄い人なんだよ。有名人や政治家にもバンバンアドバイスするような人らしいぜ。どれだけ当たるかわからない誰かの占いよりは実力がはっきりしてるんだ。信じる価値はあるだろ?」

 いまさら別の言い訳をするわけにもいかず、俺はさらによくわからな言い訳を続けた。高田馬場ってなんだよ、完全に地名じゃねえか。

「あ、そうなんだ。そんなにすごい占い師さんならユリカも見てもらいたいな。お兄ちゃんはどうやってその人に占ってもらったの?」
「友達がその人のサイトを見せてくれたんだよ。それでB型乙女座の俺は南西に良くない事があるって書いてあったんだ。それでどうしても南西に行きたいなら一回西に行ってからまっすぐ南を目指すか、南に行って西に行けって書いてあったんだよ。見せてもらっただけだから悪いけどそのサイトの場所兄ちゃんもわかんないんだ、ごめんな」
「そっか……。それじゃ、気をつけてね、お兄ちゃん」
「ああ、ユリカも寄り道ぜすに帰れよ」

 どうして妹がこっちに来ていたのか直接尋ねた所で答えが返ってくるとは思えない。ここは一回離れてまた尾行を再開しよう。なんだかパトカーのサイレン音も聞こえるので慎重な行動が要求される場面だ。

 ウウウゥゥゥ――

 そんなわけで妹のそばを離れ身を隠そうとしたタイミングでパトカーとは別のサイレンが街中に響き渡る。

「お兄ちゃん、このサイレン」
「ミミック警報だ。ここから近い避難所は……」

 すぐに妹の手を掴み走り出す。電柱や看板を見て、近くの避難所の場所を示す矢印を探す。
 そして俺の視界に入る空中に出来たヒビ。そこからゼリーのような何かがニュルリと出てきた。

 それが最初にこの世界に現れたのは今から十年前。まずは何もない空間にヒビが入り、そこから半透明のゼリーが出てくるのだ。このゼリーはどんな攻撃もすり抜けてしまい意味がない。
 専門家の話ではこのゼリーはまだこの世界に完全に受肉したわけではなく、半霊体とでもよぶ状態なのだそうだ。そして周囲にある無機物の情報を読み取り、その姿を真似ることでこの世界での体を手に入れる。
 今回は電波塔とビルが混じったような怪物に変身した。どんな姿にでも変化できる事から奴らの事を物真似獣《ミミック》と呼んでいる。そして理由は不明だがこの世界での形を手に入れたミミックは暴れ出す。
 
 ミミックが登場する前のわずかな変化をとらえ、発生地域に警戒を促《うなが》すのがミミック警報だ。それを聞いたら近くの地下シェルターに隠れる事になっている。すこしでもミミックによる人的被害を少なくするためだ。
 俺もユリカの手を引いて地下シェルターに逃げるのだった。
 そうして民間人が避難している間にとある民間企業の開発した兵器がミミックと戦っている。俺達はどれが終わり、シェルターから出る許可が出るまで大人しくしているのだ。
 騒ぎが収まった後、この日はそのまま二人とも家に向かう事にした。今日は結局、妹が何をしているのかわからずじまいだ。

「アキバの姫だか高田のババさんの占い当たったね。南西に向かっていたらお兄ちゃん大ケガしてたかも」

 そういって笑った妹は世界一可愛かった。今回ミミックが暴れたエリアが学校の南西、本屋のあるエリアだったのだ。

「本当だな」

 瓢箪《ひょうたん》から駒《こま》、まさか適当に言った言い訳が本当になるとは思わなかった。俺達は家に着くまでずっと手をつないでいたのだった。






 さて、次の日。今日は俺に|ちょっとした用事《・・・・・・・・》があるので妹の追跡は出来ない。
 しかし、俺の用事の先で俺は偶然にも妹の秘密を知る事になった。

 最初にも言ったかもしれないが、俺の家はバイトを禁止されている。しかし俺はその禁止を破りとある掃除会社でバイトをしている。
 天川《あまかわ》クリーンというビル清掃を行う会社だ。ミミック出現からはミミックが暴れた後の壊れた街のコンクリートや折れた街路樹の処理なども行っている。
 そんな天川クリーン台郷寺《だいごうじ》市支店が俺のバイト先だ。
 支店のあるビルに入る。このビルの上の階には塾もあるので高校三年生の俺が入って行ってもそんなに不自然ではない。
 そしてエレベーターに入り、階を指定するボタンの下にある非常呼び出しボタンの上に認証カードをかざす。

「カード承認。続いて網膜認証を行います」

 機械的な音声に従いボタンの所にあるカメラに顔を近付ける。

「網膜承認しました。お名前と所属をどうぞ」
「星野秋斗《ほしのあきと》、パイロットだ」
「承認しました」

 ガチャリと背後の鏡の方でカギの開くような音がした。俺はそのまま鏡を押すとその先にある階段を下っていく。
 天川クリーンには清掃業という表の顔と、もう一つ裏の顔がある。それは対ミミック用の戦闘ロボの開発、運用を行う地球防衛隊とでもいえばいいだろうか、そんな秘密結社の顔だ。
 全国の高校で健康診断の時に手を回しているらしく、健康診断の結果、俺にはそこで扱っているロボットに対する適正があったようで高一の時にスカウトされこうして天川クリーンの秘密組織でパイロットを行っている。当然その事は家族には内緒だ。

「おはようアキト、なんであんた昨日来なかったのよ」

 階段を降りきると俺と同じくらいの年のボブカットの少女が立っていた。なんだか少し怒っている様子だ。

「昨日はシフト入って無かっただろ」
「それでも警報がなったらここに来るのが基本でしょ。サブロウタはちゃんと来たわよ」
「ごめん、ごめんって。運悪く妹と一緒の時に警報が鳴ってさ、そうなったら俺だけ避難所と別の場所に向かったら不自然だろ? だから妹と一緒に避難したんだよ。それに昨日のシフトは天才パイロット三栖丸瑠璃《みすまるるり》嬢だ、俺がいなくても楽勝だろ」

 俺の言葉に怒りを抑えてくれたようだ。

「ま、当然ね。私とヘルならどんな敵も圧勝よ」
「おう、期待してんぞルル様」

 無い胸をはる瑠璃の横を通り過ぎていく。

「ちょっと、人を風邪薬みたいな名前で呼ばないでって言ってるでしょ、バカアキト」
「三栖丸 瑠璃だからルル、いいあだ名じゃないか。それよりバカアキトってなんだよ。ちょっと偏差値の高いお嬢様学校に通ってるからって市立の平民舐めんなよ」
「人に失礼なあだ名をつけるあんたなんてバカトで十分よ」
「んだと~」

 そのままにらみ合う俺達。

「相変わらず二人は仲良しさんだね」
「「誰がこんな奴と!!」」

 横からの言葉に二人が同時に振りむく。クッソ、声が被ったじゃねえか。
 そこに立っていたのは百八十を超えてそうな長身で目の細い少年。三人目のパイロット、高杉三郎太《たかすぎさぶろうた》だった。

「ほら息ピッタリだ」
「うるさいわね、サブロウタのくせに」
「そうだぜ、俺とコイツのどこが息ピッタリだっていうんだ。カフェオレ買って来いよサブロウタ」

 ムカついたので俺は財布から百三十円だして三郎太にわたす。

「あ、私はレモンティーね」

 同じく千円札を取り出す瑠璃。

「おつりはあげるわ。それでサブロウタも好きなものを買いなさい」
「うんありがとう瑠璃ちゃん」

 怒られパシられたというのに何も文句を言わない三郎太。ちなみに自販機はすぐそば、俺達の視界にも普通に入っている。この距離なら自分で買えと怒られてもおかしくないのに、本当にいいやつだな三郎太。

「ところでお前達、今日休みじゃないの?」

 三郎太からペットボトルを受け取り飲む。三五十の小さいペットボトルだ。
 今日のシフトは俺が入っていたはずだ。パイロットの仕事は基本、ミミックが来た時にすぐに出撃出来るように待機している事だ。だが毎日ミミックが出現するわけでもないので誰か一人が待機していれば後の二人はミミックが出現してからの出勤でも問題ない。というか、ミミックは現れる少し前には察知できる上に、完全に受肉するまでは攻撃が出来ないために学校くらいの距離ならば警報が鳴ってから全員がやってきても間に合う。だから三人とも昼間は普通に高校に通えるわけだし。ぶっちゃけパイロットは出勤してなくても問題ない。
 なのでパイロット三人がここに集まっているのは珍しい事だ。

「なんでもオペレーターに新しい子がはいるから、その紹介のために呼ばれたのよ」
「そのことの顔合わせがすんだら僕達は帰るよ。だから後はアキト君頼んだよ」
「なんだそうなのか、俺は指令から何も聞かされてないぞ」
「どっちにしろ今日は来るから別にいいやと思ったんじゃないの?」
「またはバカトには合わせたくなかったんじゃないの、なんでもものすっごく可愛い女の子らしいし、バカトが野獣のようにその子を襲いだしたら大変だもの。バカトは狼だもんね」
「んな事しね~よ」

 だいたいどんなに可愛かろうと俺の妹が世界一なんだそんな妹を毎日見ている俺が他の女子に手を出すわけがないだろ。

「そんな事よりあんた、そろそろスーツに着替えたら? いつまで制服でいるつもり?」
「え、でもこれから挨拶するんだろ?」

 パイロット用のスーツには様々な装備が付いている。心拍数や脈を常に確認出来たり、緊急時には電気ショックや心臓マッサージを指令室から指示できる仕組みとか、コクピットにダメージを受けでもパイロットを守れるように防刃やダメージ吸収に優れた素材が使われていたりする。
 そんな中で、パイロットの思考を読み取り、外の状況をクリアに伝え、ロボットとパイロットとの間に発生するタイムラグを減らす装置として顔の上半分を覆うヘルメットと一体になった仮面を付ける必要がある。重さはあまりなく、かぶってしまえばあまり気にならないのと、すぐで出撃できるという観点から基地内でも当直のパイロットはスーツと同時に常につけておく決まりになっている。
 だからって自己紹介の時に顔を隠していたんじゃ相手にも不審に思われはしないだろうか?

「アキト君は今日シフトに入ってるんだからいつも通り何時《いつ》でも出れるようにスーツ着てる必要があると思うよ」
「う~ん、サブロウタの言う通りかもな。不信がられたらフォローしてくれよ?」
「うん、大丈夫だよ。僕に任せて」
「え~でも、バカトが不審者なのは事実だし……」
「おいおいルル様よ、俺のどこが不審者だっていうんだよ」
「そういえば昨日女子高生の後をこっそりつけている怪しい男子高校生の姿が見られたらしいのよ。それがバカトの所の制服とそっくりだったそうよ。あんたが犯人じゃんないの」
「ナ、ナンノコトカナ。俺ガソンナ事スルワケナイヨ。ハハハ」

 まったく、俺は妹を心配するどこにでもいるただの兄で、女子高生を追いかける変態ストーカーなどでは決してないとういに。

「さ、パイロットスーツに着替えてくるか」

 俺はカフェオレを飲み切ると、空のペットボトルをゴミ箱に投げ入れ更衣室に向かった。




「おはようございます、指令」
「はい、おはよう」

 着替えを終えた俺はとりあえず指令室に向かい、ここのトップである指令の和泉真樹《いずみまき》さんに挨拶する。
 指令は髪の長い女性で年齢は三十を少し超えたくらいらしい。この指令室の隣に彼女専用の部屋があり、そこに寝袋やら私物を持ち込む住み着いている。
 いちおう会社から支給されたマンションの部屋もあるのだが、帰るのがめんどくさいらしい。まあ指令の事はどうでもいい、指令の横に新しい制服を着た一人の少女が立っていた。

「瑠璃や三郎太からも聞いているみたいだけど、今日からオペレーターに新しい子が加わる事になったから。今まではヒカルとリョウコの二人であんたら三人の体調管理や指示をやってたけど、今度からはこの子もいれて三人。それぞれに専属でついてもらう形になるからね」

 言いながら指令が少女の肩に手を置いた。

「さ、自己紹介しな」
「……」

 指令の言葉で少女が口を開く。しかし俺にその自己紹介は必要ない。彼女の事なら名前や誕生日はもちろん、好きなものや嫌いなもの、住所から携帯の番号、アドレス、パソコンの暗所番号もホクロの数や場所まで全てを把握している。だってその子は……。

「星野百合香《ほしのゆりか》です。よろしくおねがいします」

 そう、彼女は俺の最愛の妹、百合香なのだから。
 妹が隠していたのはこのことだったのか。不審な行動が始まったのは半月ほど前から、その間基地内で会わなかったのは研修は別の場所で行っていたからだろう。偽物の基地で偽物のスタッフと働かせつつ監視して、怪しい行動をしないか監視するくらいはやる組織だ。そして信頼でき、実戦投入できるまで育ったタイミングで正式にこの基地にやって来た。そんなところだろう。
 白いシャツにネクタイ、その上にオレンジ色の会社の制服。そして青いチェック柄のスカートの妹。オペレーターは全員同じ格好だけど俺の妹が圧倒的に可愛い。同じ制服でも着る人でこうまで違うとは。というか妹は何を着ても可愛すぎる。
 例えゴミ袋に手と頭を出す穴だけ開けたものを着させたとしてもその姿はまるで空から舞い降りた天使のように見える事だろう。
 ああ。このような究極の美を生み出し、そして俺に出会わせてくれた存在に感謝したいぜ。

「ちょっとバカト、なにぼ~っとしてんのよ」
「ああ瑠璃か、なんだ?」

 今は妹という究極の美について考察しているところなのに、瑠璃程度の凡人が邪魔しないで欲しいものだ。

「なんだじゃないわよ。さっきからず~っと百合香ちゃんの事見つめちゃってさ。もしかして恋でもしちゃったのかしら?」
「なにバカ言ってんだ!!」

 世界一可愛い百合香を目の前に恋に落ちない男がどこにいるって言うんっだ。まったく、そんな分かり切った当たり前のことをドヤ顔で言わないで欲しい。

「そんな必死に否定しちゃって。図星だったのかしら?」

 クククと笑いながら肘で俺の脇を攻撃する瑠璃。

「おまえな……」

 俺がいつ否定したというのだ? 瑠璃の相手は疲れる。第一今の俺はオペレーター姿の妹を脳内に記録する作業で忙しいんだ、邪魔しないで欲しい。
 ここが携帯の持ち込み禁止でなかったら思いっきり撮影をするというのに。

「百合香ちゃん、こいつはバカト。バカで変態な狼だから近付かない方がいいわよ」
「は、はあ……」

 瑠璃の説明に困惑した表情の妹。ああ、困り顔も可愛いな。その眉毛の下がり具合、なんで天然でそこまで完璧な困り顔が出来るのだろう。この顔だけでひと月は寝ずに頑張れるというものだ。

「えっと、よろしくお願いします。ところでバカトさん……」

 あれ、妹がなんだかよそよそしいぞ。俺に対して敬語をつかうとは。なんて新鮮な反応なんだ、今日は妹の色々な姿が見れる最高の日だな。もしかして、明日世界滅んじゃうんじゃね。って心配になるくらい最高の日だ。
 それにバカトさんだなんて、いつものように「お兄ちゃん(ハート)」って呼んでくれていいのに。もしかして沢山の知らない人の前だからって恥ずかしがってんのか?

「どうして星々《スター》の大戦《ウォーズ》に出てくる|敵のボス《ダースべ●ダー》みたいな仮面を付けているんですか?」

 仮面と言われて思い出した。今の俺はパイロットスーツと専用の仮面で顔が分からないのだ。だから妹は目の前の人物が俺だと気づいていないのだろう。

「ああ、これは……」
「これはバカトの趣味よ。素顔があまりに醜《みにく》いから隠しているのよ」
「あ、そうなんですか……」
「おい、嘘教えんじゃねえよ瑠璃」

 妹は素直ないい子なので瑠璃の嘘を何も疑うことなくすんなりと信じてしまった。

「今のは瑠璃ちゃんの冗談だよ。本当はパイロットとロボットの思考をダイレクトに繋ぐために必要な装置だから、いつでも出動できるように基地内では常につけている決まりなんだよ」
「ああ、そうだったんですね。そういえばロボット!! ユリカここのロボット見て見たかったんですよ。昨日もミミック相手に大活躍でしたよね」
「そう、昨日は私のヘルがやったのよ。百合香ちゃんも見てたの?」
「はい、すぐに避難したので最初だけ少し。あの女の人型ロボットがヘルなんですか? 後は狼と蛇のやつですよね。いつも現れるところまでで戦闘中はシェルターに避難しているので一度ゆっくり見て見たかったんですよね」
「あらそうなの。それじゃ今から格納庫に行きましょ。いいでしょうか指令?」
「ん? そうだな。ついでに百合香に基地内の施設を案内してもらえるか?」
「はい、お任せください」

 瑠璃が指令に敬礼すると百合香の手を掴んだ。

「さ、行きましょ百合香ちゃん。サブロウタはどうする?」
「暇だからついてくよ。僕のヨルムンガルドも紹介したいし」
「オッケー。あ、バカトはハウスで待てよ。百合香ちゃんの半径三十メートル以内に近付かないで」
「何が待てだ、俺は犬じゃねえぞ」
「あら、犬も狼も同じようなもんでしょ」
「あの、さっきからバカトさんの事を狼、狼って言ってますけどもしかして」
「そう、こいつの乗ってるロボットは狼の形をしているからね。名前はフェンリル。三体とも北欧神話の神、ロキの子どもの怪物たちから名前を取っているのよ」
「へぇ~」
「そんな事より行きましょ。いつまでもここに居たらバカトのバカ菌や変態菌が移って妊娠させられちゃうわ」
「え、妊娠……。そんな事になったらお兄ちゃんにどう説明すれば……」

 瑠璃がおかしなことを言いながら言いながら妹の手を引っ張り走っていく。三郎太が一緒だからおかしな事を言いそうになったら止めてくれんだろ。後は頼んだぞ三郎太。

「で、指令。どうして百合香《いもうと》がいるんですか? 俺にだけ新人が来ることを教えなかったのはそれが彼女だったからですか?」

 天川クリーンがこの秘密組織のスタッフを雇うとき、必ずその身辺調査を行う。なので百合香が俺の妹だって事はすぐにわかっているだろう。
 そうでなくても瑠璃は気付いていないようだが俺と妹の苗字が同じ時点で何かしら繋がりがあるのではとか思うはずだ。星野なんてこの街で沢山ある苗字でもないし。
 指令室に残っているスタッフも俺の言葉に「やっぱり妹か」みたいな反応になっている

「まあ、アキトのシフトの日にざわざわ合わせたのは認めるよ。それによってこうして正体はバレなかったようだしね」
「正体がバレないってどうしてそんな……。そりゃ驚かれはするでしょうけど、普通に正体明かして説明すりゃいいでしょ?」
「いや、家族が謎の侵略者相手の戦いの最前線で戦っていますとか普通に心配でしょ。今までの戦いで死を覚悟した事が何度ある? 一歩間違えば大ケガですまない場面もいっぱいあったでしょ。兄のそんな状態をモニター越しにずっと見てなきゃいけないなんて辛すぎんでしょうよ」

 確かにミミックとの戦いは安全なものばかりではなかった。ミミックにも個体ごとのレベルとでもいうか、強さの違いがある。実体化まで時間がかかる個体はとんでもなく強く、三人で協力してなんとか倒すといったかんじだ。逆に出現から数分で実体化するやつなど一人で簡単に倒すことが出来る。
 三人でも厳しい戦いでは誰かが大ケガすることも当然ある。そんな戦いを家族がやっていると知ったら心配になるのはわかる。仮に妹がパイロットだったとしたら、どんなに安全で弱い相手だったとしても万が一を考えて心配すぎておかしくなってしまうだろう。

「だったら妹を巻き込まなければいいだけでしょ。どうして彼女をオペレーターに?」
「それは適性があったからとしか言えないな。君と彼女の関係性を考え、リスクがあるとしても彼女を起用するだけの魅力があったんだよ」
「適正とか魅力って

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