火曜日
鬼怒川晃《キヌガワヒカル》は、授業中、自身初の居眠りをした。そして、変な夢を見た。テーマパークのような場所『夢ノ国』で従業員と話す夢。鬼怒川晃はその夢を妙に忘れなかった。
昼休み、鬼怒川晃は夢の内容を、クラスメイトである辛見伖《ツラミクラ》に話した。辛見伖は「夢は結局、夢だから」と微笑んだ。
午後の授業、鬼怒川晃は眠らなかった。辛見伖は眠っていた。
放課後、鬼怒川晃はまだ夢の内容を覚えていた。再び辛見伖に夢のことを話した。
しかし、辛見伖は話の内容を忘れていた。鬼怒川晃は辛見伖の失念を気に留めなかった。対し、辛見伖は鬼怒川晃に謝った。真剣に聞き直した。
「私が聴きたいの。覚えていたいの」
その夜、鬼怒川晃は夢ノ国に居た。そこで鬼怒川晃は槌ノ子乃文《ツチノコノブン》と再会した。槌ノ子乃文は、鬼怒川晃が居眠り中に出会った従業員であった。
鬼怒川晃は槌ノ子乃文を覚えていた。槌ノ子乃文も鬼怒川晃を覚えていた。ただ、槌ノ子乃文はこの事を不思議がった。
その後、辛見伖も現れた。
水曜日
昼休み、鬼怒川晃は再び辛見伖に夢ノ国の話をした。しかし、辛見伖は再び鬼怒川晃の話を忘れていた。
鬼怒川晃は夢と記憶の関連を疑い始めた。辛見伖は鬼怒川晃の空想に縋った。午後の授業で眠らなかった。
放課後まで、辛見伖は鬼怒川晃の話を覚えていた。
その夜、鬼怒川晃は夢ノ国で槌ノ子乃文に尋ねた。槌ノ子乃文は順に答えていった。
「夢ノ国とは『万物が休眠により至る場所』のことです」
夢ノ国に関する記憶は夢ノ国が消していること。昨晩、夢ノ国に居た辛見伖は本物の辛見伖であったこと。夢ノ国に居る人間も本物の人間であること。夢ノ国は鬼怒川晃を特待の対象としたこと。
「姫って誰ですか?」
時間切れであった。