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ばあさんの思い出:その1

ばあさんが居なくなって5年になろうとしている。事前に居なくなることがわかってたからもぎり(改札みたいなもんだ。御札を持っていない場合は追い返す)の仕事を引き継いだんだけど初心者向けの絶妙な配慮がアッチコッチに散りばめられてるのがわかる。

いいか、ここからは口外禁止だからな。特に初心者に漏らしてはダメだ。早死させないための配慮だからな。

ダンジョン入り口にもぎり(改札)があるだろ? あれも配慮のひとつなんだ。おっと、そのまえに距離と時間などの体系は地球方式に揃えておく。なれない単位系を使うとわからなくなるからな。

大抵の初心者は、麓の冒険者ギルドで依頼を受けて真っ直ぐにここまで走ってくるんだけど500メートルの上りに耐えられるかどうかがハードルその1。ギルドでちゃんと話を聴いて来ていたらもぎりの切符を持ってる。
話を全部聴かずに走り出した奴らは、ここで追い返すことになってるんだ。大人しく歩いてくる奴らはカーブだらけの階段を丁寧に登ってきて疲れ知らずなんだ。急いでる奴らは直登階段があるから、ソッチを使って疲労困憊さ。
攻略を急いでいる奴らは下り坂でも直登階段を走って戻るから麓に着いたら足が笑ってて、明日にならないと戻ってこない。普通に降りてても切符の販売時間は、ギルドが営業を開始してすぐに終わるから明日回しになるのはわかってる。
というわけでダンジョンに入るのに2往復するやつがいるんだ。ばあさんによると数代前の勇者殿が、そうだったとか。

それでだ、最初の階層への道は下り階段なんだ。しかも階段の幅や高さは日替わりするし途中で嫌になるほどの螺旋階段もあるから馴れてても足が笑って目が回ってしまう。初日に切符を持ってこなかったやつなんかは通算でも3往復に近いんじゃないかな。

階段を降りたところで一安心してはいけない。最後の階段を降りた瞬間にボスキャラが出てくる。マジメなやつは、切符を持ってたり疲れないように丁寧に階段を降りるもんだから一撃でやられる。ほんと一撃だ。だけどギルドもよく考えていて、ここで一撃を喰らうとギルドの救護室で復活する魔法陣が仕込んである。救援隊を出す必要もなく自動的に転送されるからボスキャラとの出来ゲームみたいなもんだ。

そそっかしい冒険者は、500メートルの階段を3回上り下りしてるから最低でもレベル1くらいは上がってる。丁寧かつ慎重に歩いてくる奴らにはレベルのレの字にもならない。ほんと、よく出来てる。
そうして数回一撃を喰らうとばあさんに助けを求めるんだ。もちろん、ギルドが教えてくれる。ばあさんに「相談するといいことがある」ってね。

信じるやつは500メートルを登って、ばあさんに相談するんだ。
ここにきて試験の過去問題みたいなもので周辺のスイーツ販売店には初心者向けダンジョン御用達の看板が上がってる理由がわかる。なにしろ、ここに来る途中には嫌でも目につく。だけど賞味期限が短いので買わずにギルドに顔をだしてダンジョンに挑むことになるんだ。まあ、後出しの情報ではあるのかな。

でだ、ばあさんに相談するだろ。そうすると道中にあったスイーツがほしいっていうんだ。心優しいやつは、2つ返事で走っていく。そうでないやつは根掘り葉掘り聞き出すんだけど耳が聞こえないふりをするもんだから時間がかかって仕方ない。結局スイーツ店の営業時間が終わってしまって翌日回しさ。

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