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黙示録

三日坊主という言葉に心を折られてから早数週間。
多忙という大義名分を胸に、男は堂々と執筆をサボっていた。

男の職場は、今まさに戦争である。
聖書の黙示録にある騎士のような、4つの災いが世界に蔓延していた。
疫病と、飢饉と、争いと、死である。
まずは精神的ストレスにどっぷりと浸される。
続いては飢えだ。自由への渇望。決して満たされない渇きが男を支配する。
やがて訪れる争いを目前に、止められないまま巻き込まれていく。
そして、いずれ男の心はボロボロのまま死んでいく。

・・・という空想を浮かべる余裕が、男の中にある以上はまだ平気である。

尻拭いという言葉があるが、これを堪能できるのは大人の特権だ。
誰かがしてしまった、あるいは、しなかったことの後始末を担うのに、男は十分な素質を持っていた。
人間誰しも器用には生きられない。
不器用ながらもこの現実で生きていくには、何かに取り入るしかない。
そういう選択肢を迫られた果ては、抜け殻のような人生である。
悪魔に魂を売り渡すかのように、すがりついた藁を掴む手は、希望に満ちていたあのころと同じではない。
無邪気に笑顔を振りまいている4月から来た子悪魔たちは、何も知らずに男に話しかけるのだ。

それでも仕方のないことである。
自分の住む世界を平和にするためには、誰かが働かねばならない。
現代の黙示録の騎士は、時間と納期と業績と電話だ。
どの騎士に追われたとしても、生きた心地はしない。

納期が迫る。
あっという間に時間が追いかけてくる。
業績を上げても帰ってくるものは新しいノルマだけ。
どれだけ逃げ出したとしても、電話はどこまでもついてくる。

男が手にしたノルマは空虚なものだ。
本当にこれは必要なのか? と疑いたくなるような無意味な作業を永遠と繰り返す。誰かがやらねばならなかったものが男の手に託された時、無我夢中で没頭していた。必要とされるなら、と、一時的に男の心を埋めたからだ。
誰かがやるべきことを代行するということは、その者の時間と功績を奪うことに他ならない。
結論を言うと、世界を救うために戦争を引き起こした火種になってしまったのである。

これから起こるのはきっと良いことではないと思う。
抽象論をどれだけ述べたところで、誰かにわかってもらえるはずはないが、哀れな男の悲痛な叫びがこの世に生きる誰かに届いてくれることを切に願っている。

こんなことを平日の昼間から優雅にランチをしながら書き綴っている男を、いったい誰が同情してくれるというのだろうか。
ドリンクバーを飲みながらそんな心配が頭から離れないため、今日も執筆は進まない。

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