師走というものは、どこまでも人を怠惰にするらしい。
駆け巡る時を無駄に費やしてなお、男が欲するものは無為に過ごす時間だけであった。
水槽の中で流れている水を眺めるだけ、エアコンの風に煽られている電気の紐を目で追うだけ。
男は疲労しているのだ。
いや、いけない。こんな現実はとても耐え難い。
こんなのはまるで病室の中で外の枯葉が落ちそうなのを眺めながら余命を過ごす患者のようではないか。
どうにかして、この悪しき習慣から逃げなければならない。
そんなとき、男を癒すものはラーメンだけであった。
それでも、現実は獣のように襲いかかってくるのである。
仕事は山積みである。
締切の近い書類もある。
書類が黒銀の狼のように猛々しくこちらを威嚇してくる。気を抜いたら最後、自分は喉元を抉られて絶命するだろう。
早く、早くどうにかしなければ、雪崩のように畳み込まれて、仕事の中に埋め尽くされ、身動きがとれなくなるだろう。
しかし、そんなものはもはやどうでも良い。
今、束の間の休息を自らの手で作り出すのだ。
そんなことは容易である。立ちはだかる獣が、黒銀の狼からねずみ色のハムスターになったくらい可愛らしいものである。
男は、ラーメン屋を求めた。
「あ、明日は早朝から駅伝で走るんで・・・」と帰ろうとする後輩を捕まえて、「え・・・今日はヘルシー志向で行きたいんだけど」という同僚も口説き落とし、「お前マジでふざけんな」と怒る先輩をなだめ、男はラーメン屋へと足を進めた。
ラーメン屋は定休日であった。
今日も執筆は進まない。