職場には、ハエが住んでいた。
このハエというものは、何故にもあのように飛び回り、それでいて容易に捕まえることが出来ないのだろうか。
しかも、1匹どころの騒ぎではない。
5匹いた。
その5匹がそれぞれに目的を持って生活しているような、そんな感じがした。
そんなとき、ある1匹が目の前に止まった。
お決まりのゴマする商人のような手つきで男を挑発していた。もちろん男は、その挑発に乗ってやった。
しかし、速度に勝るその1匹は、なかなか捕まえることができない。
男は意地になって、どこまでも追っていった。
野を超え、谷を超え、海を越えて行った。
どこまで追っていっても、結局そいつはゴマをする手つきで構えていた。
男は考えた。
どうしたらコイツを仕留めることができるのか、と。
しかし、大陸を跨ぎ、空を飛び、大気圏を越えてもなお、ソイツはゴマする手つきをやめようとはしなかった。
あるとき男は訪ねた。
「やい、なぜお前はどこまでいってもゴマする商人のような手つきで構えるのか」
しかし、ハエは答えない。声帯がないからだ。
気がつくと、男は布団の中にいた。
夢か。。。
夢心地の中で、ふと手の中に妙な感触があることに気づいた。
それは、寝ながらにして掴んでいたハエの死骸であった。
男は悲しんだ。
悲しみのあまり、仕事も何も手につかなかった。
結局今日も、小説が進まなかったか・・・。
しかし、男は気づいていなかったのだ。
その、ゴマする手つきをしているのは、今まさにその手を洗う自分だということに。
そう思った瞬間に、何かに掴まれるかのように、目の前が真っ暗になった。
※※※あとがき※※※
っていうか、ここまでくるともうエッセイじゃないような気がする。