最近、週一回の更新を心待ちにしているカクヨム作品があります。テーマ的にはまっすぐな成長物語なのですが、特徴的なのは一回あたりの文字数が異様に長いということ。当初は大体5千字ぐらいだったのが、最近は当たり前のように2万字を越えてきます。改行もない。でも読み続けてるとこっちも慣れてきて、週末にしっかり時間を取って読むというスタイルが定着してしまいました。
この手の、一回あたりが非常な長文で改行もない作品というのに時々出会います。スマホでの読者には敬遠されそうですが、PC派や紙の本、一般書籍を読まれる方には比較的抵抗感を持たれないのではないかと想像します。
小説投稿サイトがメジャーになる前は、自作小説をネットで人に読ませたければ個人ウェブサイトで公開するのがまあ一般的だったかなと思います。その場合、一ページの文量は「話のキリの良いところまで」だったのではないでしょうか。「第一章」とか「第一節」とか。原稿の書き方も一般的なもので、「空行」なんて発想はありません。
空行は、携帯やスマホが普及してその環境で読みやすくするために生まれた手法ではないでしょうか。一回あたりの文字数が少ないのは、スマホユーザーがスキマ時間にちょい読みするのにちょうどいいから。
具体的に考えてみましょう。
通勤通学電車の中で、周囲の邪魔にならない暇つぶしの道具はスマホ。マンガは覗き見が恥ずかしいので小説を読む。目的の駅を乗り過ごさないよう、集中しすぎず流し読みできるものがいい。あまり情緒を揺さぶるようなものだと、読むのを中断しても引きずってしまう。帰り道だと疲れているので、複雑な展開や難しい文体はすんなり頭に入ってこない。疲れやストレスが蓄積されていれば、それを癒やす優しい話やスカッとする話がいい。
そんな気持ちでウェブ小説を読んでる読者って、たぶん相当数いると思います。そういうニーズがあることが、人気作品の傾向から伺えますよね。そういうニーズの読者のために、そういう作品を書く作者もたくさんいると思います。
一方で、単行本のような自分のしっかりとした世界観を表現したく、それを発表する場として小説投稿サイトを選んだ作者もやはりたくさんいるでしょう。
個人サイトから引っ越してきた方もいるでしょう。
そういった方たちは、スマホ画面での見栄えとか、一回あたりの長さとかは特に考えない――考えても優先度は低い――でしょう。
また、読者の側も、スキマ時間だからなど考えず、「物語」を読みたい、読み応えのある話を(お金をかけずに)読みたいと望む人もいるでしょう。環境がスマホしかないから空行はほしいけど、没入させてくれる物語に出会いたい、なんて人もいるかもしれません。
だらだらと書いてしまいましたが、要するに、作者側も読者側も、目的も閲覧環境も異なる様々な層が存在するはずだということです。
感想・批評企画をよく目にしますが、そこを考慮できてないと感想の物差しが偏ってしまうのではないかと思います。「あくまで個人の意見です」とは言ってみても、その意見とはどういう前提・基準に基づくのかを明言したほうがいいんじゃないかな?と思うこともたまにあります。
例えば、「『スマホユーザーで、三話以内に物語性を感じさせる展開があり、その先も読み応えがあるような作品を求めている読者』を想定読者とし、そのような読者のために書かれた小説を最も高く評価します」といったような。
こういう基準だと、癒やしのためのストレスフリー日常系や公募寄りの文芸系は低評価になってしまうと思われます。
基準が明文化されていないままアウトプットすると、紋切り型(=世間一般の常識、絶対的な基準)の感想・批評に見えてしまうような気がします。(ウェブ小説の読者は誰もが必ず空行を求めるものだ、とかね)
たまたまターゲットが合ってないだけの作品が、絶対的に劣った作品のように見られてしまうかもしれない。その評価を目にした人々もその価値観を受け入れてしまい、他の価値観が見えなくなり、排除されてしまうかも知れない。リスキーですね。
自分の感想が一個人の偏った意見に過ぎない、ということに自覚的な方は、どう偏っているかを丁寧に伝えようとしている印象です。
自分のプロフィールを紹介することにより、どのような価値観を形成したかを伝えたり。
好みの問題でもなるべく客観的に「こういうのを求める読者には合わないかも知れないが、逆にこういうのを求める読者には合うかも」と、読者層の広がりが視野に入っていたり。
感想・批評を書いて公表する場合は、作品をしっかり読みこむとかアドバイスは建設的にとかいうのももちろんながら、こういった観点からの客観性や誠実さも大事なんだろうなあ……と思うところであります。
だから、そんな風に取り組んでいる方は本当に尊敬します。いや本当に。
そんな感想企画ブックマーク集。分類は私の独断、URLの次行は私が読んだ印象です。
<作品紹介したい系>
■一万字読書 カクヨムコン9版
黒月水羽 さん
https://kakuyomu.jp/works/16817330667949864098基本的に好意的な感想に絞っているが、作品を理解しようとじっくり考察している。
■迷える子羊の読書録
田鶴 さん
https://kakuyomu.jp/works/16818093085464641449面白かった作品をぜひ紹介したいという熱意にあふれており、確かに紹介作品を読みに行きたくなる。
■自主企画参加作品についてコメントしてみる
トマトP @猫部@NIT所属@WGS所属 さん
https://kakuyomu.jp/works/16818093081568538246短文ながら、出会った作品に楽しんだり驚いたりといった素直な感想が微笑ましい。
<作者へ感想を贈りたい系>
■素人がフラットな気持ちを心がけてレビューした場合
武蔵 さん
https://kakuyomu.jp/works/16818093083376491477良いところ、気になるところを、あくまで自分の感性としてみだりに主語を大きくせずに語る点が誠実。
■《5000PV越感謝》【自主企画用】カクヨム作品読書感想文📖🖋
風雅ありす さん
https://kakuyomu.jp/works/16818093078825400558親しみやすい語り口で、自分の好みも明言することで感想の解像度の限界を示し、それでもためになる感想になるよう努めている。
■「短編募集!全部読みます!感想を書きます!」投稿作品の感想
人名 さん
https://kakuyomu.jp/works/16818093084236306329短編に絞ったことでしっかりした読み込みを可能に。未読の読者のための気遣いも良い。
<切磋琢磨したい人向け系>
どちらも突っ込みが深い印象。
■感想・批評企画まとめ
島流しにされた男爵イモ さん
https://kakuyomu.jp/works/16817330668981316726一方的な批評にならないよう、作品に合う読者層を推測するなど客観性に努めている。
■カメムシの小説雑話★「じっくり感想企画」開催中
梶野カメムシ さん
https://kakuyomu.jp/works/16817330654869504941自己紹介でスタンスが把握できる。参加者との距離感がよく取れている印象で、アドバイスもあくまで自分ならこうするという態度をキープ。