交番勤務の若い警察官は、今日も物陰に隠れて往来に目を光らせていた。
獲物、もとい、交通ルールを無視する一般庶民に、ルールというものをきっちりと指導するためにである。
この隠れているというのは、ちと語弊があるかもしれない。
警察官たるもの天下国家から与えられた一般庶民の生殺与奪権、もとい、公僕として正々堂々と指導する権利が与えられているのだから。
でも実際には曲がり角の盲点をわざわざ探して、いかにも警察官が立っていますよという気配を消している。
ここが肝心なのである。代々そう教えられてきている。
職質のプロ、彼はそう自認しているのだ。こっそりと隠れながら。
本来警官は、事件や事故を未然に防がねばならない。
んなことはわかっている。
でも制服警官が立っていたら、大抵の一般庶民は避けて違う道を行くか、わざと「自分はやましいことのない、善良な一般庶民です」と目をそらせながら早足で通り過ぎる。
それでは面白くない。もとい、万が一犯罪者であれば、みすみす逃すことになる。
だからこうして建ち並ぶ家の影に身を潜め、獲物、もとい、不届き者を探索しているのであった。
「き、きた~ッ!」
若い警察官は、塀の向こう側に身体を隠して、思わず握り拳を。
獲物、もとい、交通ルールをパーフェクトに無視した犯罪予備者がこちらに向かってくるのだ。
その犯罪予備者は、ママチャリを片手で運転しながらスマホでくっちゃべっている。
道路交通法第71条では、「携帯電話使用運転」は違反行為として5万円以下の罰金となる旨が明記されている。
自転車泥棒など、どちらかといえばライトな犯罪に強いこの警察官。、
居丈高に塀の奥から飛び出し、吹かなくてもわかる距離で笛を吹く。
「ピーッ! ピピピッ! おいっ、そこの自転車に乗ったオニイさん!」
ママチャリに乗っているのは、坊主頭でかなりデカイ。
でもこちらには拳銃、もとい、天下国家から与えられた捜査権、逮捕権がある。
「スト~ップ、ストップ、停まれ~! ちょっと、こっちきて」
「あ、ああ、ぼくのことかなあ」
「そうだよ、オニイさん。あなた、今さ、スマホしながら自転車に乗っていたよね」
「え?」
「すぐにその右ポケットに隠したようだけど、本官はちゃんと見てたからね」
「い、いやあ、スマホなんて持ってないんだあ」
悪いことをする人間は、バレるウソを平気でつく。
「あのね、現行犯だからね、アンタ」
弱い者、もとい、犯罪者には強気で出る。警察官なのだから。
「え、ええっと。ぼくはスマホもガラケーも、電波を送受信する機器は持っていないんだあ、うん、持っていない」
「初犯なら大目にみてあげようと思っていたけどな。そこまで抵抗するなら、ちょっと署まで来てもらおうか」
「仕事に行かなきゃならないんだけど」
「おまえなあ、自転車だからって許されると思ってたら大きな間違いだぞ! なんなら所持品検査してやろうか。
なんだよ、このコンビニの袋はさ。ヤバいモノでも入れてんじゃないのぉ」
オニイさんからあなた、そしてアンタときておまえ、だ。
初対面であっても、警察官なら許される。
「ああ、こ、これはぼくのお昼ごはんなんだなあ」
「とにかくさ、スマホ使いながら自転車乗ってたんだからな。これは立派な犯罪だ! 道交法違反というな!」
坊主頭の男は宙を仰ぎ、着ていた上着の右ポケットに手を突っ込んだ。
まさか、凶器か!
警察官は思わず拳銃を引き抜こうと身構えた。
正当防衛だから仕方がない。
「お、お巡さん、もしかしてこれのことかなあ」
男がポケットから抜き出したのは!
「……え、え~っと、それは?」
「カマボコなんだあ」
男が手にしているのは、食べかけの、板についた白いカマボコであった。
「ちょ、ちょっぴりお腹が減ってしまったから、お昼ご飯用に持ってきたカマボコのひとつを、食べながら自転車を漕いでいたんだなあ。
今日は寝坊してお弁当が作れなかったって、かあちゃんが冷蔵庫にあった
カマボコを二十個ほど持たせてくれたんだなあ、うん、カマボコ」
男が荷台に乗せたコンビニの袋の中には、確かに板付きカマボコが大量に入っていた。
「や、やっぱし食べながら自転車を漕いでたら、危ないなあ」
「え~っとぉ、そうねえ。まあ道交法にはちょ~っと引っ掛かるかなあ」
「ああ、じゃあ、これからは飲まず食わずで自転車を漕ぐことにしようかなあ」
「……だね? やっぱり自転車も交通ルールを守らないとね。
え~っと、そう、お気をつけて行ってらっしゃい、オニイさん!」
若い警察官は、出勤途中のノリゾーに敬礼をしながら見送る。
こうして犯罪を未然に防げたことに、警察官はその胸に矜持をいだくのであった。
拙作「絶対に、その家だけはやめておけ!」のスピンオフ、でございます。
お時間のあるおかた、チラリとのぞいてみてくださいまし。
ささ、久しぶりにカクヨムさまをチェックいたさねば。
このところ、すっかりご無沙汰してしまいましたゆえ。
あ、「カクヨム・パラレル・ワールド」にお★さまをいただいております!
木原 唯さま、
どうも初めまして! このようなオチャラケ話をご覧くださり、またお★さままで頂戴いたしまして、誠にありがとうございます!
心より御礼申し上げます。
今後ともどうぞよろしくお願い申し上げます♬
あ、「二十歳のおばあちゃんへ」にお★さまを頂戴しております!
銀鏡 怜尚さま、
大変ご無沙汰いたしております。ご多忙な中、お時間を割いてくださり、またお★さままでいただきまして、誠にありがとうございます!
心より御礼申し上げます♬
あ、「みかんをのせた、もっちん」にレビューをいただいております!
雹月あさみ さま、
あさみさま、いつもありがとうございます。つばきに似合わぬ童話をお目通しくださり、また望外なレビューにお★さま、そして数々の応援コメントまで頂戴いたしまして、誠にありがとうございます!
心が温まるだなんて、嬉しい♡ もちろんわたくしは戦争体験はございませぬ。でもけして忘れてはならない史実でございます。
心より御礼申し上げます♬
このところリアルが多忙でございます。
ゆえに、なかなかヨムができておりませぬ。フォローさせていただいております物語は、必ず近日中に拝読いたします。
また、カクのほうでは関川二尋さまの「パッチワーク・ストーリーズ」にて「この異界に集えし千軍万馬のアラクレどもよ」なる、異世界ファンタジーをこっそり公開させていただいております。
カクヨム界にこの人あり! と絶賛されておられる書き手のかたがたにまじって、恥ずかしながら描いております。
お時間のおありのかたは是非ともご覧くださいまし♬