『ここは、高い山の麓にある谷合。
静かに小川がせせらぎ、森からは小鳥たちの優しい鳴き声が聴こえ、野原にはパステルカラーの花が咲き、爽やかな風が穂先をなでています。
森の奥から、テトッテトッという足音を鳴らし、なにやら白い影がゆっくりと走ってきました。
かなりポッテリとした体型は、そう、あのカバに似ているかもしれません。
大きな頭の上には三角の耳が立っており、尻尾がゆらめいています。
この谷に住む、妖精のひとりです。
ただなぜかオカッパにした髪が生えており、銀縁の眼鏡をかけた下の細い目は、ちょっぴりアブナイ気配を放っています。
妖精はニタニタと不気味な笑みを浮かべ、手にはミニのセーラー服を着たアイドルのフィギュアを持っていました。
オタクの妖精?
「ちょっとお、走るのが早いわよ~」
森の奥から、やけにドスの効いた声とともに現れたのは、巨大な妖怪? いえいえ、この谷に住む人間の女の子のようです。
長い髪を頭頂部で結びあげ、目の痛くなるような派手なパープルのワンピース姿です。
趣味はお相撲?
白いカバのような妖精は立ち止まり、イラッとした目線を女の子に向けました。
「はあっ、はあっ、追いついたわ。走るの速いんだから、ム~ミ……」
「おいおい、そこでボクの名前を間違えちゃあ困るぜえ。ム~ミの次はソなんだぜ、だぜえ」
「知ってるわよ、ム~ミソ。ム~ミソ谷に住む妖精でしょ」
「ぐふふっ、 “ ン ” じゃないからね、 “ ミ ” 」
「そうよ、ワタクシの名前は、ミ。けっして「~」と伸ばしちゃダメ。
あくまでも、ミよ。子音のみで、母音はつけちゃいけないの」
「本来は恐いモノ知らずで、怒りっぽいチビのはずなんだけど、けど。
何を食べたらそんなにデカクなるのか、七不思議のひとつだぜえ、だぜえ」
「知らないわよう、そんなこと。アンタだって本来は、オカッパ髪も眼鏡だってないんじゃなくて?」
「これでいいのさあ。だって、ここはム~ミソ谷なんだも~ん、グヘヘヘッ」
そのときです。
ビヨ~ン、ビョンビョンビョ~ン、と弦楽器の音が二人の耳に聞こえてきました。
「あ、あの音は!」
「むむむっ、向こうから琵琶を弾きながら歩いてくるのは、スナフ菌(きん)じゃ~ん」
ム~ミソは丸っこい指をさします。
スナフ菌、まるで新種の悪性ウイルスのような名前です。
ペイズリ~柄の山高帽にペイズリ~柄のマントをはおい、パイプをくゆらせながら琵琶を弾いて歩いてくる男。
薄茶色のサングラスに無精ひげ。どこから見ても怪しげな中年男は、琵琶を弾きながら世界中を旅してまわっているのです。
釣りもたまにやるそうです。
いったい何を釣るのか、決まって深夜。丑三つ時に忍び装束でこの辺りをウロウロしているらしいのです。
「お~い、スナフ菌~っ」
ム~ミソが手を振ります。
「おんやあ、これはこれは、ム~ミソにミじゃねえですかい。お揃いで、結構なことでごぜ~やすねえ」
妙に粘っこい、納豆を千回ほどかき混ぜたような口調でスナフ菌が応えます。
「ねえねえ、平家物語でも聴かせてほし~んだぴょ~ん」
ム~ミソの提案に、ミはギョッとおののきます。
「ちょっと、アンタ、ダメよ平家物語は!」
「お安い御用でござ~いぃ」
スナフ菌は目を閉じ、ビョンビョンビョ~ンと琵琶をかき鳴らします。
「諸行~無~常のぉぉぉ響きありぃぃっとお、沙~羅双~樹のぉぉ花の~色ぉぉぉ」
突然周囲が暗くなりました。
すると小川のほうから青い光が輝き、何やらザワザワと動く音が聞こえてきます。
ム~ミソは眼鏡のブリッジを押し上げました。
「おんやあ、あれはニョ口(くち)ニョ口(くち)とお見受けするぜえ、するぜえ」
ニョ口(くち)ニョ口(くち)とは、群れでさまよう、物言わぬ生き物のことです。
しゃべらぬのに、口(くち)が二つもついております。
「ちょ、ちょっとお待ちになって! あれはニョ口(くち)ニョ口(くち)ではなくてよ!」
ミは身をすくめて叫びます。
「おごれる~人っもぉぉ久しからずぅぅっとぉ、 ただ~春のぉ夜のぉぉ夢のぉぉぉごとしぃ~」
スナフ菌の謡う平家物語に釣られてわき出てきたのは、遠い昔、この谷が流刑地であったころ、死罪になった科人たちの怨霊でした。
「ヒエェ~! 助けてぇ、ム~ミ……あら、どこへ行っちゃったの?」
ミが振り返ると、ム~ミソはとっくにその場からスキップで逃走しているではありませんか。
ム~ミソ谷に、ミの絶叫が響き渡ったのです。
おしまい
~~♡♡~~
ムーミソ : 炉地珠三郎(タマサブ)…出演物語「魔陣幻戯」、「千年魍魎」、「面妖な金属男」
ミ : ナーティ白雪…出演物語「魔陣幻戯」、「千年魍魎」
スナフ菌 : ディーン・胃腸ヶ峰…出没物語は近況ノート』
このところ、なにゆえかお★さまが減少していっておりますの。
妖魔「星剥がし」の仕業かしら!
などと冗談を言えぬほど、ちょっぴり落ち込んでいるわたくし。
待つのよ、つばき! あなたはお★さまを頂戴するために語り部になったの? おひとりでもご覧くださるかたがいらっしゃれば、それで良いのではなくて?
さようでございましたわ!
キワモノ語り部としての本筋を誤る処でございました。
ささ、気を取り直しまして、カクヨムさまのチェックよ。
あ、「予想外な涼ノ宮兄弟」にレビューをいただいております!
村岡真介 さま、
いつも大変お世話になっております。お忙しい中にも関わらずお目通しくださり、またレビューまで頂戴いたしまして誠にありがとうございます! 面白さ満点だなんて、嬉しい♡ 本来はマジに兄弟愛を描く純文学を目指しましたの。どこでどう間違えたのやら、キテレツなお話になってしまいました。確信犯? うふふ☆ そんなに器用ではございませぬ。
心より御礼申し上げます♬
あ、「魔陣幻戯」にレビューを頂戴しております!
時織拓未 さま、
あの名作「時のロープ」を創造された時織さまにご覧いただけたなんて、誠にありがとうございます! その上レビューまでいただきまして♪
良作だなんて、嬉しい♡ 「幻魔大戦」、「オスカー」は不勉強で申し訳ございませぬ。16万文字もダラダラと描いた物語。お褒めいただき、光栄でございます☆ しかも猟奇シリーズまで宣伝いただき、感謝いたしておりま~す♡
心より御礼申し上げます♬
あ、「猟奇なガール」にレビューをいただいております!
桜井今日子 さま、
今日子ちゃん、ご多忙の中お目通しくださり、またレビューまで頂戴いたしまして誠にありがとうございます! 今作こそ、わたくしが猟奇ストを名乗るようになったお話でございます。「ドはまり」だなんて、嬉しい♡
あ、でもあくまで、墓尾つばめと高尾つばきは別人でございます。え?
いづれ菖蒲か杜若かと? 誰も褒めてはいない? 失礼いたしました♪
心より御礼申し上げます♬
あ、「カクヨム・パラレル・ワールド」にお★さまを頂戴しております!
あやめさん.comさま、
この度はお忙しい中、わざわざご覧くださり、また貴重なお★さまをいただきまして、誠にありがとうございます!
心より御礼申し上げます♬