https://kakuyomu.jp/works/16817330656927273343/episodes/16818023212373264213「では、行くとしましょうか。ヤーネルさんはご自分のお車で向かいますか?」
「いえ、私は電車なので、お車にお邪魔したいと」
「あぁ、噂は本当だったんですね」
「噂?」
「はい。移動は専ら公共機関をお使いになると耳にしています」
「あぁ、なるほど。えぇそうですよ。私はほとんど電車やバスを利用します」
「どうしてそんな不便な事を。時間の融通も利かないでしょうに」
「それがいいんですよ。イレギュラーは思考を豊かにしてくれる。電車、バスの場合、時刻表の乱れや社内でのハプニングが往々にして起こるものです。鉄道会社の対応。人々の反応。駅の混雑ぶりなど、大変興味深く観察できますから、実にいい。一つの事象によりミクロからマクロまで影響されるわけですからね。個々人がどんな行動をするのか、その結果がどう繋がるのか。これ程想像力を掻き立てられるものもない」
「相変わらず変わってますね」
「人と同じでは企業の代表など務まりませんからね」
「それはそうですね。確かにそうだ」
ヤーネルの変人趣味を聞いたウィルズは苦笑いを浮かべて「行きましょう」と腕でゼスチャーをし、三人並んで車まで歩いていた。この時、しきりにウィルズが俺に話をふってきて、車に入ってからももっぱら二人で話す事となった。ヤーネルに付き合いたくなかったからか俺への気遣いなのかは不明である。