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自由のために1

https://kakuyomu.jp/works/16817330656927273343/episodes/16818023212424120583


「ところでアシモフ君。君はどうだい。人類は皆、自由だと思うかい?」





 だが、思ったよりもヤーネルは真剣なようだった。真面目な眼差しでこちらを見つめ、俺の意見を求めていたのだ。

 適当にそれっぽい事をいってお茶を濁そうかとも思ったが、ふとヘンリエッタの姿が浮かんだ。「貴方、またそんな情けない真似をされるおつもり?」と嫌味たっぷりに俺の小賢しい処世術を否定し、「貴方の意見を言いなさい」と発破をかけてくるのだ。惰弱な発言は不興を買うだけだと言いたいのだろう。そしてその指摘は概ね正しい。ヤーネル程の人間がわざわざ電車を乗り継いで俺などに会いにやってきたのだ。取り繕った反応など見せたらきっと失望するに決まっている。彼が望んでいるのは、俺の為人や考え方なのだと仮定した方が腑に落ちるではないか。





「……自由の定義や見方にもよりますが」





 俺は一言述べてから呼吸を整え、言葉を続けた。





「基本的に生物は何かに縛られているかなと思います。生理現象だったり物理法則だったり、人間だったら主義や主張、宗教だったり……本当の意味で囚われていない存在というのは皆無でしょう。何物も、何かによって制限されていると思います。中でも今の人類が一番縛られているのは金ではないでしょうか。我が国にはベーシックインカムが導入されていますが、それだけで生きている人は少ない。少し贅沢をしたい。育児に力を入れたい。趣味を満喫したい。そういう欲望を持つ以上、支給される以上の金を得なければならない。経済的な援助がある我が国ですらこれですから、他国は更に不自由に苛まれなければなりません。金を得るために一日の大半を仕事に費やし、それを何日も継続する。仕事をするうえでは就労規則もありますし、人間関係を考慮する必要がある。逆に言えば、潤沢な資金があれば、少なくとも経済的な自由は得られます。旅行や遊びに使う事もできるし、勉学、研究のために投資する事もできる。人生の選択肢は格段に増えますが、しかしそんな人は一握り。そういう意味でいうと、人類は自由とは程遠い」

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