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いくひ誌。【661~670】

※日々、〈私〉が引き継がれていくとはかぎらない。


661:【増殖】
あなたに読まれていると想像するだけで機能しつづける「メイブン」が持ちあがる。〈僕〉はあなたのなかに物語という種を蒔くことでしか存在の輪郭を保てずに、いつだって風やホコリに紛れている。あなたの内部で芽吹いた種が、あなたのちからで花を咲かせる。私はそれを眺めるための器官であり、あなたによって芽吹いた花は、新たな種子を〈僕〉に与える。〈僕〉はあなたの内部で増殖し、私はそれを取りだしては、風やホコリに紛れこませる。


662:【ばか言ってんじゃないよ】
あなたあなたって、あたしはおまえの奥さんか。だいじだから奥にしまっておきますってかい。かってに物扱いしてんじゃないよまったく。


663:【新作はどうした】
うっせぇぞいくひし。黙ってやれ。


664:【そういう言い方ってないと思う】
やってますー。そっちこそ表紙ザツになってきてない? どうせ30分とかそこらで修正なしの突貫でしょ。ひとの作品だと思って手ぇ抜いてんじゃないの、手伝ってくれんのはうれしいけど!


665:【だいじょうぶ】
舐められてるときがチャンスだ。


666:【純粋亞垢(じゅんすいあく)】
産まれたときに三人殺した。母体となった女と、それから私のDNAに生体認証データを焼きつけようとした設計師(コーディネータ)、そして私をデザインするように指示した人物、すなわち私の素体原型モデル――総裁リズム=アルゴそのひとである。自分のクローンを予備として造っておきたいと考えた私の原型は、奇しくも私がこの手で殺してしまった。底上げした性能が暴走したとする分析を、ほかの面々は唱えたが、それはどうあっても私に罪という汚点を残さないようにしようとする苦肉の策もとい、苦しい言いわけにすぎなかったことをむろん、私でなくとも多くの同士が知っている。人工子宮、今では同士の九割が卵型の容器のなかでカタチを得、十歳児前後の肉体で外界へと排出される。残りの一割は自然分娩、いわゆる性行為を介した受精、妊娠、出産により生まれ落ちてくるが、その多くは非戦闘員として、性産業に従事している。私はそのどちらでもなく、かつどちらでもあった。生まれたその瞬間から、総裁として国の頂点に君臨した私は、その三日後には、戦闘服に身をつつみ、他国への侵略に身を投じた。軍事強化を図りつづけていそがしいその他国は、こちらの武装解除の要求に耳を貸さず、前任の、すなわち私の原型である元総裁へとあべこべに、自国に有利な貿易の提案を突きつけていた。半ば脅しともとれるその要求を突っぱねることが前任にはできなかったようだが、私はそこまで甘くない。こちらの声に耳を貸さないやからに耳は不要だ。手足はもっと不要だろう。相手国の領土に足を踏み入れたその日から私は十日でその国の四割におよぶ民から手足をもぎとった。「摸擬体」を百万機導入したために可能とした成果である。十日かかったのは、それゆえほとんど手抜きと呼べる。DNAに刻まれた私のデータは、「摸擬体」に寸分たがわず受け継がれ、私は百万個の私に分身したと言っても大袈裟ではなかった。「総裁、こちらのメスは天然物でありながら【設計師】の資格を有してします」「珍しいのか」「わが国では三人しかおりません」「うむ。量産したいな。ではそやつに子を産ませろ。死なぬように肉体強化を施術したのち、おまえらの慰み物にしろ。避妊はするなよ」「御意」こうした報告が、毎秒単位で私の頭脳を張り巡る。ある者は珍しい特殊体であり、またある者はデータバンクとして有能な長寿をその身に宿していた。「肉体はいらん。頭脳だけをとりだし、ほかのバンクと並列させろ」「御意」私は的確な指示をだし、最適な成果を結んでいった。しかしみなが私と同様の行動原理を伴っているわけではなく、合理性に欠いたやからもいるところにはいる。「総裁、先日申しあげたスパイの件ですが」「見つけたか」「洗浄機にかけ、記憶を洗いました。単独の犯行らしく仲間はいないようかと」「記憶の改ざんなどいくらでもできる。前にも言ったはずだぞ、スパイの容疑がかかった時点で、そいつもろとも、接触のあったすべての個体を破棄しろと。接触レベルは四以上の者だ」「それだとわたくしめも含まれてしまいますが」「うむ。自害しろ」「……御意」ほかの部下へと引き継ぎの指示をだし、その男は私の目のまえで焼失弾を起爆させ、燃滅した。スパイ容疑の多発により、一時的には戦力ダウンしたが、優れた部下には、私と同様、摸擬体を与えた。戦力は増し、国土は倍々の速度で増していく。総裁みずから戦地へ赴かなくとも、といった意見がでなかったわけではない。効率を重視すれば致し方ない判断であり、基本的なところをほじくり返せば、守護神「百目小僧」がぐるっと我が国を囲んでいる。最大戦力が離れても問題はなかった。圧倒的勝利がつづき、間もなく、そこまで戦力を投じなくともといった消極的な意見がではじめた。大臣だけでなく、国民の大半がそのような意見を口にする。私は言論の自由を縛り、私の意向に反する主義主張には重い罰則を設けた。私は世界征服がしたいわけではない。ただ、思うぞんぶん総裁としての能力を発揮したいだけである。あるとき、右腕として重宝していた女に裏切られた。戦力の五分の一を失う事態に陥った。女は、むかし私の目のまえで自害した男の、娘だった。他国から仕入れた天然物が産んだ、次世代戦士だったが、あの男が死んだとき、彼女はまだ子宮のなかにおり、そして慰みものでしかなかった腹袋が、あの男の接触レベル四に該当しないのもうなずけた。女には失った分の戦力を産んでもらうべく処刑を十年先に延ばした。いずれ拷問という拷問をほどこしたのちに死んでもらうことに変わりはない。女は私をまえにすると笑った。「もっと重くていいんだぞ。この世でもっとも重い罰をわたしに与えろ。忘れるな、わたしはあんたのもっとも忠実かつ親しんだ部下だ、おまえとの接触レベルはかるく九を超えるぞ」女への罰を重くすればするほど、私に課せられる罪も重くなる。よくできた復讐だった。「よかろう。餞別だ、持っていけ」私は百万機の摸擬体と繋がり、そしてじっさいにじぶんの右腕を引きちぎる。ポケットのなかのビスケットを百万回叩いた具合に、役立たずの右腕が百万個積みあがる。「おまえの手で失われた戦力以上の損失だ。おまえにはこれ以上の罰を担ってもらうぞ」女の笑い声はいつまでも途絶えなかった。支配下にない国々と女は繋がっていた。弱体化した我が国を、連合国の業火が襲う。当面の打開策として私は、一億機の摸擬体と繋がった。多くは、すでに生体登録されている。いわば借り物であり、生体情報を上書きした分、性能は落ちるが、数のちからは有効だ。戦場から解放された多くの戦闘員を、摸擬体の修繕と生産作業に回した。ほとんどこれは私と連合国の戦闘と言ってよかった。私は摸擬体を介し、私という無数の私になり、そして国になった。指示するよりはやく、手駒が働き、破壊対象が問題と化すまえから灰燼に帰せる。指令をだすという作業の、不合理性を実感し、私は私という国の優位性を確信した。合理性の塊の私と、幾多の無駄を内包したままの連合国、どちらに軍配がくだるかなど計算するまでもない。間もなく私は、数多の国をその民ごと粒子レベルで抹消し、巨大な陸の海をつくりあげた。砂のようで砂でないそれは、重金属の含有により、液体とも気体ともつかない、流動性の塊となって広く分布した。資源の宝庫と呼べるそれは、同時に、ひどく不安定な状態のまま存在を維持しており、あらゆるものをとりこみ、即座に分解せしめた。エネルギィの均衡が保たれるまで、それは触れるものすべてを呑みこむ魔の海域と化している。それをつくりだした私はむろん、それに囲まれており、一刻もはやくその場を離れるべきだったが、私のこの状況を好機と見る者は思いのほかすくなくなかった。それこそ、私がこれまでに侵略してきた国だけでなく、私の国そのものが、私を亡き者にしようと、戦力のすべてをそそぎこみ、魔の海へ沈めようと反旗をひるがえした。摸擬体の残機を足元に固め、かろうじて魔の海に呑まれずにいた私は、そこで降りしきる兵器の雨を防ぐだけの摸擬体を起動できなかった。避けることも、防ぐこともできないとなれば、あとはもう、受けて立つほかに道はない。私はかろうじて残った足場に向け、最大出力での磁界砲を放った。振動のレーザーとも呼ぶべきそれは、魔の海の底の底へと到達し、到達する合間の分厚い粒子の層ごと、激しく、瞬時に、撹拌した。連鎖的に干渉しあうそれら振動は、膨張し、巨大な爆発にも似た現象を引き起こす。足場を中心とした半径百キロ圏内に、粒子の波が降りそそぐ。頭上に迫った兵器の数々は、粒子に触れたさきから分解され、さらなる崩壊の連鎖をひろげていく。私は磁界砲を、それがつづくかぎり放出しつづける。私は振動の塊のなかにおり、粒子の波はそれら振動の層を越えてくることはなかった。緩やかに収束しつつある磁界砲を足もとに照射しながら、私は、魔の海底を、音速の十倍の速度で駆け抜ける。魔の海域を脱したころには、身にまとっていた摸擬体は、瓦解寸前であり、緩やかに歩を止めたと同時に、私は生身の肉体を大気にさらしている。目のまえには故郷の堅牢な外壁が、頭上はるか十キロ先にまで伸び、行く手を阻んでいる。もはやこの中に私の国はない。外壁に亀裂が走り、割れ目からレーザー砲の穴が覗く。一つではない。ギョロギョロと壁という壁を埋め尽くす。かの国最大の守護神、百目小僧とはこれのことだ。相手にとって不足はない。私は最後の侵略をはじめるのである。――私は国である。私という総裁をゆいいつとする、国だ。


667:【時間仮説】
時間は情報量に比例する。では情報とは何か。変化の軌跡と言っていい。変化の軌跡は、観測不能な形而上の概念であり、世界に張りめぐらされている「場」の振動数と表現してもいい。その空間を形成している「場」が何回振動したかによって、そこに蓄積される情報量の多寡を示せる。「場」はある回数振動するごとに、一時的に層を発生させ、その枚数を増し、厚みを形成する。熱が火を熾し、光を発し、物体を炭化させ、周囲にそのエネルギィを拡散し、ナニゴトカの影響を拡げる。その連鎖は、ある一定の枠組みで保たれ、そして収束し、つぎなる場へと引き継がれる。きっかけの連鎖がつづくかぎり、「場の層」は顕現しつづける。「場の層」はほかの、場や「場の層」と重複し、新たな「場」を形成することもある。物体の状態変化や、化学反応は、その新たな「場」によって、物体の連続した変化を引き継ぐ。我々人類はそれらを知覚し、時間として認識している。しかし、現象として起きているのは新たな「場」の創造であり、連続しているのは存在そのものではない。世界は拡張しつづけており、重複しつづけている。情報は未だ無限に蓄積されつづけている。なお、この「時間仮説」からすると場の規模は時間に比例せず、場の振動数だけでその多寡が決定されるため、人間の脳やコンピューターのような「情報を絶えず生みだし、加速させる装置」は、太陽よりも巨大な「場の層」を創造していると推測される。


668:【報酬】
金銭的な報酬がなくとも善意でなにかしらを行っていた者たちが、その行為の対価として報酬を得るようになると、報酬がないとそれをしなくなる、という経済学の法則がある(名前は忘れた)。全体の利益をあげたければ、無償で施されていた行為を対価で釣って促進させるのではなく、あなたの行為は無駄ではなかったと解りやすく伝えることのほうが有意義である。彼らはお金がほしくてそれをやっていたわけではないはずだ。むろん、お金がほしくてやっている者には、それに見合った報酬を与えるのは効果的ではあるだろう。


669:【性感戦争】
Esso - Star Wars


670:【ファイアボール・チャーミング】
ディビさんのついったーでディズニーアニメ「ファイアボール」が全話無料で視聴可能との情報を得たわ。さっそくYOUTUBEにて視聴するわよ。「ファイアボール・チャーミング」のドロッセルお嬢さまのかわいらしさ、小憎たらしさ、デザイン性から性能の高さから、チョモランマから急降下する抜け具合まで、ネジ、ボルト、ナット、(なっとく)それね。(ちなみにお嬢さまの知能がやや幼いところにご注目ください)うそ。(高飛車なところもございます)なんだそれは。いったいそのカッコ内の声はどこからくるのか、おまえたちしっているか。(返事がございませんね)うん。もういい。(ちなみに登場人物たちはいずれも機械仕掛けのロボットでございます)ロボット少女はすきよ。

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参照:いくひ誌。【91~100】https://kakuyomu.jp/users/stand_ant_complex/news/1177354054881352770

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