• 異世界ファンタジー
  • エッセイ・ノンフィクション

189話 幕間 ノース男爵4

ソラの獲物が鋼のように硬い甲羅を貫いた。
巨大な亀の魔物は体液を撒き散らしながら地に倒れる。

「大将、終わりましたよ」
「おう!」

その魔物の先には半月ぶりに城壁の姿が見えていた。

「…着いたようだな」

レインは地図を広げるとバロックに見せる。

「あれが東の拠点か」
「ここから北へはサウス侯爵家が展開しているらしい」
「まずはここの兵士長に挨拶か?」
「そうなるな」

二人は頷き合うと要塞都市へと続く道を進む。
そして城門で身分確認を終えると、バロックは領主の館に案内された。

「まずはようこそと言うべきかな?男爵」

室内に入ると窓際で佇んでいた初老の男が上品な声で話しかけてくる。

「あなたは?」
「失礼。ここを任されているリンスターだ」
「お初にお目にかかります。バロックと申します」

レインからここの領主は宮中伯だと聞かされていた。
だから、まさか一介の男爵に自ら挨拶に出てくるとは思ってもみなかったのだ。

「政争に巻き込まれたようだね」
「はは…」

自分達が少人数で行かされた理由を宮中伯は端的に述べた。
こういうやり取りはレインが得意とする事だ。
バロックはここにいない弟の姿を浮かべて苦笑いをする。

「……」
「リンスター卿?」

何かを考え込む宮中伯を怪訝に思ったバロックは声をかけた。

「…いや、話に聞いていたとおりの人物だと思ってね」
「話にとは?」
「君の妹君…シャロン卿には何度も命を救ってもらったのだよ」

そう言って宮中伯は微笑む。

「確かに君は政治にまったく向いていないようだ」
「そ、それはその…」
「はははは!申し訳ない。勘違いしないでくれ」

言葉を詰まらせるバロックを見て宮中伯は楽しそうに笑い声を上げる。

「戦場の貴族とはそうあるべきだ。彼女のようにな」
「シャロンを随分買っていらっしゃるのですね」
「ああ、一緒に来ていないのが残念だ」
「冒険者になると言われまして…」

バロックは困った顔を浮かべると、

「冒険者?また突拍子のない事を」

宮中伯は楽しそうに微笑む。

「いやいや、懐かしくも愉快な気持ちにさせてもらったよ」
「これからどうすれば宜しいのですか?」

バロックは困惑しながらもリンスター卿に問いかける。

「陣は好きに選んで構わん。後で地図を送ろう」
「ハッ!ありがとうございます!」
「非常識な旅をしてきた者に常識を説く事もない。10人でどう拠点構築するか見せて貰おう」
「優秀な弟がいますので」

その言葉にバロックは深々と頭を下げる。
そして、しばらく談笑すると別れの挨拶と共にバロックは館から退出した。

「どうでした?」

館から出てきたバロックにソラは問いかけた。

「陣取りの許可を得たぞ」

バロックはふぅと安堵の息を吐く。

「その前に問題が二つある」

レインは渋い表情を浮かべて煙草に火をつけると二本の指を立てた。

「二つだと?」
「待っている間に補給をしてきたが、金貨しか使えない上に尽きかけている」

後ろを見れば兵士達の背負う荷物は満杯だった。

「このままだと、この補給で最後だ」
「…そうか」
「次に予想よりも北の樹海は厄介らしい。襲来する魔物の強さがな」
「僕が斬りますよ」

ソラがまるでお使いに行くかのように軽い口調で答える。

「何日寝ないつもりだ?それに広範囲をカバーできるのか?」

レインの鋭い視線がソラに向けられる。

「じゃあ、まずは煙草を買うのをやめたらどうです?」
「ふっ、このままだと最後になると言ってるだろ」
「それで、どうするんだ?」

睨み合う二人の間でバロックは問いかける。
レインが解決策もなく問題提起するとは思えなかったのだ。

「冒険者ギルドに行くぞ」

レインはそれだけ答えると、紫煙を燻らせ歩き出すのだった。

コメント

コメントの投稿にはユーザー登録(無料)が必要です。もしくは、ログイン
投稿する