主人公は、冷たい石の床の上に立っていた。両手を後ろに組み、背筋を伸ばす。足元には、数多の顔が見え隠れする様々な商人たちがひしめいている。
目の前に現れたのは、奴隷商人の面接官だった。鋭い目つき、口元に微かな笑みを浮かべているが、その笑みはまるで商人のように冷徹だった。
「さて、君。まずは自己紹介をしてもらおうか」
主人公は、目を伏せることなく、彼を見つめながら答える。
「アリス。私はアリスです。」
その一言に、商人の顔には一瞬の驚きが浮かんだ。それもそのはず、目の前にいるのは、若い男性で、しかも女性の名を名乗っているからだ。しかし、それが意味することを彼はすぐに理解するだろう。
「アリス、か。なかなか面白い名前だ。それに、君の容姿、悪くないな」
商人は不気味に微笑みながら、じっと主人公を見つめる。視線を感じる度に、彼の体が少しずつ硬くなるのがわかった。商人は続ける。
「君、暗算が得意だって聞いたが、それも試してみようか?」
試すと言われたところで、主人公はただ頷くしかない。彼ができることは、もうそれしかないのだ。
商人が次々に与える計算問題に、彼は冷静に答え続けた。数字が頭の中で素早く組み合わさり、すぐに解答が導かれる。商人はその都度、感心したように頷くが、どこか不快そうな表情を見せることもあった。
やがて、面接が進む中で、次の登場人物が現れた。女性の面接官だった。彼女は美しく、優雅に歩を進める。だが、その顔には冷徹なまでのビジネスマインドが宿っていた。
「あなた、錬金術師として働いてみない?」
その一言で、主人公は我に返る。錬金術師といえば、何かしら特別な技術を持っている人々だ。彼のようなものがその世界に加わる価値があるのかと、一瞬疑問に思ったが、彼女の目には何かしらの確信が宿っていた。
「もちろん、私はあなたのような商人と一緒に働けるわけではない。ただ、あなたが持っているものには、何かしらの価値があるかもしれないと思っているわ。」
主人公は静かに、そして確信を持って答えた。
「ならば、私は女装して売り子として働くことを決めました。」
その言葉は、彼にとってまるで決意を固める瞬間だった。自分の価値は、もう他者に決めてもらうしかない。そう覚悟を決めた。
面接官は目を見開き、その後すぐに軽く微笑んだ。
「いい決断だと思う。私も少し助けになるかもしれないわね。」
主人公は、わずかな希望を胸に抱えたまま、次の段階に進む決意を固めた。それが自分の新しい人生を作るための第一歩となることを感じながら。