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講演録 2

 登場人物と状況は決まっている。けれど文体がきまらない。新人にはインパクトある文体が不可欠だ。それで「カマ」さなければ、下読みのアルバイトをひきつけることはできない。中身さえよければ? 第一印象が外見で決まるように、応募作品の印象は「文体」で決まるのだと思う。「ラスト十ページで衝撃があなたを襲う」みたいな作品を応募したところで、ラスト十ページまで読んでくれるはずはない。なにしろ、効率重視なのだ。専門家は、書き出しの数行で「良作」か「駄作か」を判別する。たとえそれで、芥川賞候補となりうる作品を発掘しそこなったとしても、そもそも、発掘されなかった作品などゴミなのだから関係が無い。天才は必ず発見されるものだし、発見されそこなう天才という社会不適合は無数に存在するものだ。
 正直いって、構想している「講演録」は地味だ。異常な状況ではあるが、異常な状況下で異常な人物が異常な振る舞いを行う世界は、ちっとも異常ではない。という意味において「異常」なのであって、それはひじょうに「地味」なのである。
 まず、静かだ。その静けさは、頭上をミサイルが素通りした後の静けさであり、そのミサイルに気を取られて、カーブを曲がり損ねたサイクリストが、ガードレール間の僅かな隙間を通り抜けてしまったときの「スン」という静けさであり、ひとしきりガサガサと杉の梢が揺れた後の静けさであり、縊死する人のいる静けさである。
 この静けさの、なんと騒々しいことか!
 発端はこのような静けさから始まるのだが、そのまま初めては工夫がない。
 だから、内容はすべて「音声データの書き起こし」として書かれることになるだろう。
 重要なのは、環境音であり、オノマトペである。

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