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講演録 1

 何か、長いものを書こうと思っています。
『空想技師』はずいぶん長いぞ。と仰るかたがいらっしゃるのなら、あれが長いこということを知っていただけていたことに謝意を表しつつ、僭越ながら「あれは長いとはいえ『短い』ものだというささやかな反論を、表明しておかねばなりません。
 だからといって私に「長編小説」を書き上げるだけの知識も力量も備わっていないことは、こちらで読むことのできる私の創作から一目瞭然のことと思われます。
 現在「未公開」となっている、25万文字ほどの小説にしたところで、日常系のバイオレンスホラーサスペンス純愛ギャグストーリーといったものであってくれればまだしも、たんに「文字数が多い話」であることに変わりはないのです。
 そもそも、長編小説というものに不可欠とされている「構成」を構築するだけの資質の根本的な欠落を自覚しており、17文字から25万文字にいたるあらゆる私の創作活動において「構成」などという「理知的」な「計算ずく」な「予定調和」の「すべてを支配下においた」、「ファシズム的」な、「作業工程による分業と流れ作業を可能とする効率重視のマニュファクチャ」を導入する資質が根本的に欠落しておりながら、「毎週日曜日に5000文字ずつ続きを書く」という勤労意欲だけが取り柄である私には、「長編小説」というダイヤモンドのように磨きぬかれが輝きと圧倒的な硬度とを併せ持った「世界」を顕すことなどは不可能なのでした。
 本当は「短く書く」べきなのかもしれません。
 しかし、「短く書く」場合、その作品に執着できる時間もまた「短くなってしまう」という由々しき問題が発生します。
 
 私は、だらだら書きたい!
 寄り道だらけの一筆書きの約束ごとをことごとく無視した一筆書きの長く見通しのきかないシングルトラックを、裸でのろのろと辿って暮らしたい。
 私にはそれが何よりも楽しく、救われ、生きがいであると確信するにいたった今日この頃だからこそ「長いものを書きたい」と思うのです。
 スタートは決まりました。
 経由地の候補にも旗を立てました。
 ゴールは見えていませんが、たぶん、二人か一人の男が死にます。(というか死んでいます)
 天気の具合をみて出発する予定です。

 400文字×250枚くらいの食料を携えて。

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