火炙り小話「ガルは博識?」

(時系列→18話より前)


「ガルヴェイルさんて博識ですよね」

 突然ホナミが言い出したものだから、パンを口元に運ぶ手が止まった。夕食時の雑談として何気ない様子で言うホナミに、「そうか?」と返すと、「そうです」と頷かれる。

「この世界のこと、色々教えてくださいますし」
「特別詳しい訳じゃない」

  本を読むことはそれなりに好きではあるが、特別物を知っているという訳でもなければ、頭が良いという訳でもない。ただ、この世界に初めて来た奴に何かしら教えられる程度には知っているというだけだろう。

「ホナミだって、元いた世界のことならある程度説明できるだろ?」
「う〜ん……まぁ、ある程度なら……?」
「それと同じだ」

 そうですかねぇ、なんて言われ、そうだ、と返して、この話は終わりとなった。
 夕食を終えると、ホナミは言葉の勉強を始める。俺はそれに付き合いながら、ふと思ったことを口にした。

「ホナミは、勉強は好きな方か?」

 ホナミがきょとんとした顔でこちらを見る。ペンを顎に当てて考える仕草をしてから、俺の質問に答えた。

「好きではないですね」

 勉強をしている様子を見ているとそうは思えなかったが、本人の自覚と周りからの見方に相違があるのは珍しくない。俺は適当な相槌を打って、ホナミのスペルミスを指摘した。

「ガルヴェイルさんが丁寧に教えてくださるので続けていられるようなものです」

 スペルミスを修正したホナミは、晴れやかな顔で「いつもありがとうございます」と言った。それは、ホナミにとって教わる相手は俺しかいないがためのリップサービスだったのかもしれない。
 しかし、俺に取っては、ホナミの勉強に惜しみなく時間を割いてやりたいと思うくらいには、嬉しい言葉だった。

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