火炙り小話「あなたは特別な人」

 ガルヴェイルさんがジザロさんのところへ買い物へと出掛けて行った昼下がり、気まぐれに焼いたクッキーを頬張りながら、お菓子といえばバレンタインやホワイトデーというものがあったっけ、なんて思い出す。最近は全く縁のないものだったから忘れていた。考えるとしても、会社の人に義理チョコを配るかどうかくらいなものだ。この世界にも、そういったイベントはあるのだろうか。ガルヴェイルさんが帰ってきたら聞いてみよう。
 そういえば、ホワイトデーのお返しには意味があるのだったっけ。私が今持っているクッキー。これはたしか……

「友達でいましょう」

 だったか。マシュマロはお返しの定番のようにも思えるが、意味は「あなたのことが嫌いです」だったような。

「ただいま」

 ガルヴェイルさんが帰ってきた。私は出迎えるためにクッキーを口に頬張りながら席を立つ。急いで噛んで飲み下し、ガルヴェイルさんの元へと駆け寄った。

「そういやこれ、ジザロんとこで買ったんだが、食べるか?」

 渡されたそれは、可愛らしく梱包されたカップケーキだった。私は先程まで考えていたことを思い出す。カップケーキ。カップケーキの意味は……。

「い、いただきます……」

 私は赤くなった顔を隠すように、ガルヴェイルさんに背中を向けた。

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