皆様、カクコン11お疲れさまでした!
私は今年も仮想戦国譚で参加しましたが、少しでも読んでくださる方が増えたらいいかな?という軽いお祭り参加でしたので、普段と変わらぬマイペース更新でした。
その分、読みの方は例年よりもたくさん読めた気がします。いつも拝読する推し作家さんだけでなく、新しく出会った作家さんの作品も何作か読めてホクホクでした。
今後の予定も、引き続き仮想戦国譚を週末更新しつつ、まだ読み途中のカクコン参加作品中心に読みを進めていきたいと思います。
それから、エックスでもポストしていましたが、バレンタインSSという名の、若かりし頃の周と亡き奥さんの短編を書きました。
一応、本編の「大蛇を見るとも女は見るな」の閑話休題でさらっと二人の結婚秘話は書きましたが、ここでは無自覚両想いの頃の二人のお話になります。では、ご笑納ください。
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尾形領では年に一度、十代前半から三十路手前の若衆たちによる御前試合《ごぜんじあい》が開かれる。元服《げんぷく・男子の成人の儀》を済ませていれば、年齢・家格・階級に関わらず誰でも参加可能。というより、ほぼ強制的に参加させられるといっても過言ではない。
簡易的に作られた囲いの中、刀や槍に見立てた棒を使い、一対一の一本勝負を行う。領主や重臣たちの他、参加者の家族友人、その他野次馬と大勢の見学者が集まるため、緊張と周囲の熱気に襲われる。慣れないうちは、戦場とは異なる異様な空気に飲まれる者も少なくない。
数え十六の周は今年で三回目の参加となるが、御前試合をとてつもなく億劫に感じていた。
元服した十四の年に初参加(厳密にはさせられたが正しい)した時、数多の年長者を負かし、決勝まで進んでしまった。決勝では対戦相手に負けたものの、『武家もどきの若輩の癖に生意気だ』と負かした相手ほぼ全員から目をつけられ、何かにつけ絡まれる羽目に陥ったのだ。
周の本来の家系は武家ではなく、尾形の現領主が長年寵愛する側室・躑躅《つつじ》御前の実家に仕える薬師。父の代に主家と共に戦に出陣し、父が大手柄を上げたため武家として認められたものの、普代家臣の家の者からは『半端者』『武家もどき』と蔑まれることも少なくない。
特に、現領主の正室腹の嫡男・紅陽と彼に従う家臣たちからは『まだ幼くも、美しき神童と名高い異母弟・月若側の一派の筆頭』との警戒含め、蛇蝎のごとく嫌われていた。元服から三年経ても、未だ城への出仕が許されない最も足る理由の一つでもある。
それならそれで好きにやる。
元々武家ではないせいか、周自身の気質ゆえか。
出仕できないならできないで民と共に田畑を耕す。空いた時間に薬学の勉強をし、武芸の鍛錬するだけのこと。戦にだけは駆り出されるし、前線で戦わされることがほとんどなので自然と武芸の腕は上がっていったが、周には出世欲が皆無だった。
手柄への褒美も薬草の種苗を欲しがるので、『腕は確かなのに土いじりを好む変わり者』と益々蔑む者が増えていた。
そんな己が歴とした武家の若衆を差し置いて決勝まで進んでしまったのだ。さぞや面白くはなかっただろう。
だから、二度目の御前試合では適当に手を抜き、適当な所で負けた。
同い年の旭《あさひ》からは『何故手を抜く?!真面目にやらんか!!』と突っかかられたが(旭は普代の武家なのに珍しく周を認め、認めるがゆえに何かと突っかかってくるのが少しうっとうしい)、あとで絡まれたくないのだから仕方がない。
「まっ、三回戦くらいで負けるとしようかな」
囲いの中、打ち合う者たちも見物人も白熱する最中、支えにした棒に体重を預け、もたれかかる。小袖は襷掛けにし、袴の裾も脛まで上げているが、肩より少し長い、癖のない髪は下ろしたまま。別に下ろしていても、御前試合程度の打ち合いで支障はない。
「んだよ、やる気ねーなあ!!」
「せっかく見に来てやったのにのう~」
周のすぐ後ろ、彼とほぼ背丈が変わらない、目つきの悪い少年が大声で叫ぶ。
ちょうど声変わりの時期なのか、かすれた声質なのにやたらよく響く。
叫んだ少年とは別の、もう一人の少年も声量こそ普通だが、明らかに面白がっているのが感じ取れた。思わず、うるっさ……、と、振り返りもせず、眉を寄せる。
「……あのさあ、何でまた鬼熊と犬若揃って見に来てんの。来るなって言ったよね?」
「あ?暇つぶし?」
「帰ってクソして寝なよ」
「ひっどいのう!旭殿に周が手抜かぬよう……、じゃなくて~、応援に行ってやれって頼まれたから来たのにぃ~」
「そこの犬っころ、昔みたいに鬼鍛錬でまた歯折られたいの?」
糸目をかっぴらき、クソガキ二人、もとい、まだ元服前の年下の幼馴染二人に圧をかける。が、生意気盛りの二人には柳に風。
昔から尊大な鬼熊はともかく、犬若なんて数年前まで気が小さく臆病ですぐピーピー泣き喚く軟弱者だったのに。
「ったく、人の気も知らないで」
げんなりと二人から視線を逸らし、代わりに周囲の様子を伺う。
すると、周囲の輪から外れ、一人だけぽつん……と遠慮がちに囲いの中、誰かを探すようにきょろきょろする少女を見つけるなり、周の視線は釘付けとなった。
その視線は思いの他強かったようで、気づいた少女こと海松《みる》の不安げだった顔が途端にパッと晴れる。
遠くからでも分かるほどよく日に焼けた健康的な肌色。誰に対しても平等に向けられる明るい笑顔。笑うとほんの少しだけ口元から覗く白い歯。
容姿こそ武家の娘の美しさからは外れ、庶民の娘と変わらないが、明るく素直な心根に癒される者は多い。身分や立場などに捉われない気さくさも。
薬師の家系の周を見下す武家の子女も多い中、彼女は『武芸も秀でて、薬学にも精通している方などなかなかおりませんのに。皆様、どうしてもっと周様をお引き立てしないのでしょう』と逆に不満に感じてくれている。
海松こそ、『妾腹とはいえ尾形家の親戚筋の娘なのに、顔や手足、着物を泥だらけにしながら民と畑仕事に勤しむ変わり者』だと皆から揶揄されている。
ある意味、周とは似た者同士だからか、彼女とは畑仕事で顔を合わせるごとに互いに親しみを覚えるようになっていた。
「……なーんで海松殿まで来ちゃったかなぁ」
己の自惚れでなければの話だが、おそらく海松は周を応援しに来てくれた……、と思いたい。
まいった。
凭れていた棒の先に顔を突っ伏す。
紅陽派に絡まれるのは面倒だ。
でも、気になっている娘が見ている前で恥はかきたくない。
後々起きるであろう厄介ごとと、海松の前で良いところを見せたい自尊心とでぐるぐるする。背後では、珍しく頭を抱える周に「あいつ、急にどうしたんだよ。大丈夫か?」と鬼熊と犬若がひそひそしだしたが、脅す気にもなれない。(脅すところも海松に見られたくないし)
その二人の声よりも、更に小さく、複数人でのひそひそ声が周の耳に入ってくる。
「……おい、見ろよ。アレ」
「アレ?」
「アレだよ、アレ……。ほら、××家の牛蒡娘《ごぼうむすめ》!」
「はっ?あの、色黒痩せぎすの?」
『××家』に続き、『牛蒡娘』という揶揄に伏せていた顔を上げ、声の方向をさりげなく確認。紅陽の近習と思しき若者たちが、海松がいる方へ目配せし合っている。目線にも表情にも侮蔑を存分に込めて。
彼らの言葉に周りも反応し始め、「あれが、噂の……」「噂に違わず、本当に牛蒡みたいに黒い……」「とても普代の家の娘御とは思えぬ。農民と変わらんではないか」「背丈はともかく、もう少しふっくらしていれば多少は見れたものを……」と、好奇の目で口々に海松の容姿を貶しだすではないか。
海松にも聞こえたようだった。
明るい表情は消え去り、その場で恥ずかしそうに縮こまってしまった。
たしかに海松は肌は日焼けしているし、背丈も他の娘より少し高い。
食べても肉が付きにくいのが唯一の悩みだと、笑いを交えて周に打ち明けてきたことも。だからと言って、牛蒡娘と揶揄され、貶されるのは非常に心外だ。
奇しくも、海松を貶した連中は全員紅陽派かつ周の対戦相手、もしくは対戦予定になるかもしれない相手──、開いた糸目に殺気を込めて睨む。下ろしていた髪を無造作に一つにまとめる。
全員完膚なきまで叩きのめす。
そうして、内心の宣言通り、この年の御前試合で周は見事勝ち抜き、優勝した。
気に食わない連中に吠え面かかせられたし、周が勝ち進んでいくごとに海松の笑顔が戻ってきたし、海松に良いところを見せられたしで、たまには全力出すのも悪くない。
後日、やはりというか、倒した相手から闇討ちに何度も遭ったが、その度に返り討ちにしてやったとか。