お疲れ様です。
諸事情で人生のお暇期間中の青月です。とか言いながら、諸々の手続きが多くて案外気が休まらないものですね……。でも気が休まらないなりにちまちまと過去作オジギソウの転載や番外編、おふざけSSなんかは更新しております。
大遅刻も大遅刻のキスの日SS集はお姫様CPたち(約一組CPじゃない)とおひとりさま英国女子のルード×ナオミでお届けしています。ぜひともご笑納ください。
それからお姫様番外編のイェルク視点の後日談を以下に上げます。こちらもご笑納いただけたら幸いです。
※※※
医務室の奥、小さな明り取りの窓からしか光が差さない作業室。
機械油の臭いが染みつき、修理中の武器類や道具などが散乱する机上へコーヒーカップを二客並べる。琥珀色の液面から漂うバニラの香りに、着席していたスタンの眉間に皺が寄った。よく知った香りからイェルクの意図を察したのだろう。
更に眉間の皺を深くし、無言でコーヒーを啜るスタンの隣の席へイェルクは腰を下ろす。
「どうだ。ミアからお裾分けでもらったコーヒーだ」
「どうだも何も、元々は俺があいつに分けてやった物だが」
「ああ、そうだったな!」
「白々しい。……で、結局ミアになんて答えた。言っておくが、詮索じゃないぞ。仲間内の関係によって組織の秩序が乱れては困るからだ」
スタンはコーヒーを飲みながら、ふん、と鼻を鳴らす。
横着な物言い、偉そうにふんぞり返った態度だがちっとも腹など立たない。これでも本心ではイェルクとミアを気遣っているに違いないから。
「一時の気の迷いかとも疑ったが、どうも俺の予想よりずっと真剣に考えてくれていたみたいでな。その、なんだ……」
改めて言葉にして口に出そうとすると躊躇いが生じる。
「要は絆されたのか」
「柄にも年甲斐もなくそういうことに……、なるのか??」
「知らん。俺に訊くな」
「じゃあ、そういうことなんだろうな。……もちろん、あの娘の立場を考慮して、二十歳になるまでに最終的な結論を出すと決めた」
一笑に付すか、呆れて怒るかと思いきや、スタンは「まあ、お前がそれで問題ないのならかまわん」と言っただけだった。
「俺としてはむしろ安心したかもしれん」
引き続きスタンが言い放った意外な言葉に、イェルクはカップを持ち上げたまま彼を左眼で凝視した。その視線をスタンの右眼が受け止める。
「あいつは責任ある立場の癖にいつまでたっても危なっかしい。未だに冷や冷やさせられる。お前みたいに保護者も兼任できるくらいの器じゃないとこっちも気が気じゃない」
「ひどい言い様だな」
「事実を言ったまでだ。あいつはともかくお前が仕事に支障をきたすことはないだろうし、せいぜい仲良くやるといい」
言葉自体は舞台の悪役じみているが、スタンなりの激励のつもりだろう。
ミアから告白された時とはまた違った面映ゆさを、イェルクはコーヒーを口に含むことでごまかした。
(終)