いつもお読みいただき、ありがとうございます。
自分がちょうど書いた映画界の暗部について、日本でも話題になって少し驚いていますが、欧米に追い付いてきたのかなと思っています。
私が『錬金術科』の中の第11章「アルブレヒトの追憶」の中で、そのことを取り上げたのは私の好きな映画の1つ『ヴェニスに死す』のことを思い浮かべたからでした。
その映画は古い作品なので軽くご説明しますと、トーマス・マンの小説を映画化したものです。
疫病が流行っているヴェニスに人生に疲れた年配の上流階級の男が、そこで出会った(というか見かけた程度)美少年タッジオの美しさと若さに恋をして、でも声をかけることもできず病気で死んでしまうという悲劇です。
それでアルブレヒトを書くときに、美少年=タッジオを思い浮かべて参考にしようとビョルン・アンドレセンさんのことを調べたのです。
私はビョルンさんのことをこの映画以外は知らなかったので、子役を辞めて普通の生活に戻ったんだろうぐらいにしか思っていませんでした。
そしたら彼はその映画を撮ったルキノ=ヴィスコンティ監督に性的搾取され、苦しんでいたことをカムアウトしていたのです。
それは『世界一美しい少年』というドキュメンタリーで発表され、この作品自体はまだ見ていないのですが、内容の紹介がされていたので知りました。
ものすごくショックでした。
私にとって『ヴェニスに死す』は、子どもの頃に見たのでおじさんが死んでいくところなんて覚えていませんでした。
ただ美しい人たちがバカンスを楽しんでいるイメージとマーラーの音楽が印象的でした。
その中で、タッジオがボートをつなぐ棒だと思うんですけど、そこを支点にして夕日の中をくるくるっとゆっくり回るシーンがあるんです。
そのシーンは少年から青年になる直前のはかない美を、夕日になぞらえた名シーンなんだと思いますが、私にとっては「棒くるくる」して楽しそうだったのです。
それから私はそう言う棒を見かけたら、「棒くるくる」して遊ぶようになりました。
私の楽しい思い出と結びついた映画だったんです。
だからそのショックは本当に大きくていろいろ調べてしまいました。
ちょうど「#Me Too」も盛んだったのでさらにショックを受けて、そのことをものすごく作品に反映させてしまいました。
書かずにいられなかったんです。
だから私は映画関係者ではありません。
特定の監督はなかったんですけど、ジュリエットをイメージした人はいます。
映画だけじゃなく弱い立場の人を搾取する人間は、残念ながら結構います。
ここまでひどい事じゃなくても、セクハラやパワハラに遭ったことは多少なりともあると思います。
本当に許しがたいことです。
作品や権力者が与える影響は大きいのです。
それはウクライナのことだってそうです。
1人の独裁者がGOサインを出したことであんなひどいことになったのです。
彼にウクライナの人を殺す権利なんてないし、ロシア兵だってそんなことしたくなかった人が大勢いたと思います。
これだってパワハラです。
多くの映画に原作提供されている作家さんがこのようなことが起きないように声明文を出されましたが、私も完全同意です。
私はそんな声をあげるにはささやかな存在にすぎませんが、あげないよりはいいと思っています。
これから先の未来に、このようなことで苦しむ人がいなくなることを心から願っています。