明けて土曜日。
ハイエースに乗って二人組の兄ちゃんたちがやってきた。
「あー、このタイプはキャンペーンと別のタイプっすねぇ。でもスペアがあるんで出来ますけどどーします?」
職人っぽくはあるけど、なんとなーく胡散くさい青年である。
偏見はいけないけれど、みごとに茶髪とピアスと首元にチラッと入れ墨。
「値段はいくらです?」
「6万っスね。追加は現金になりますけど。どーします?」
「あの、それと今回交換しない場合は見積料で2万円かかります。交換すれば無料ですけど」
そういう手で来るか……
貧乏神さんはすでに恐怖でオロオロしている。
目が泳いじゃって、口元はあわわと震え、僕と業者さんのことを交互に見ている。
大丈夫さ。
「まだほかに費用がかかるのかい?」
「そっすね。工事費が8万円、廃材引き取り料で2万円いただきます」
「とすると……全部で16万ってとこかな?」
うん。ざっくり予算の倍。
「うーん、ちょっと予算オーバーなんだよね」
「やめときますか?」
もちろん何もしないで二万円渡すのは痛い。
ただ二人も来て時間を拘束しているわけだから、無料というのも都合のいい話だろう。
業者さんにも都合があるし、なんでも無料ってわけにはいかないものだ。
「本体だけでも安くならないかな? 廃材引き取り料は仕方ないけどさ」
「まぁ、いいっスよ。一万円だけ勉強します」
オッケー。その言葉を聞けば十分だ。
「じゃあ、頼むよ。そうだな、せっかくだから二人にお昼をご馳走しよう。ピザは好きかな?」
「え? いいんすか?」
「ああ。カミさんの手作りピザなんだ。絶品だよ」
「あ。じゃあ、とりあえず荷物だけ運んできます!」
二人が部屋を出たところで、しょげかえっている貧乏神さんに耳打ちする。
「まぁ任せといてよ。じっくりオーブンで焼いて、二人にごちそうしてやって」
「でも……本当にごめんなさい。こんなにお金かかるって知らなくて……」
「なに。ボクに任せてよ」
ということで後は簡単だ。
二人に台所でピザを食べさせている間に、僕はササっと古い給湯器を取り外し、新しい給湯器を据え付けて、配管も済ませてしまう。
二人がピザでお腹いっぱいになった時にはすでに交換は完了している。もちろん廃材もきれいに包んでおいた。
「え? まさかアンタがやったんすか?」
「ああ。配管系の資格は全部持ってるから大丈夫だよ」
ニッと笑うと、業者の兄ちゃんはニンマリと困ったような笑みを返した。
「これじゃ工事費は取れないっスね」
「悪いね。引き取り料で勘弁してくれよ」
「分かったっス、それにメチャおいしいピザもごちそうになっちゃったし」
その言葉に貧乏カミさんはパっと顔を輝かせる。
「ね、何とかなるもんだろう? 支払総額7万円。ちょっと節約できたんじゃないかな?」
そんな風に言ったら貧乏神さんがいきなり抱き着いてほっぺたにキスしてくる。
「すごいですっ! 給湯器の交換までできるなんて、びっくりです! 尊敬ですっ!」
「あー、オレらもう帰りますわ」
まぁ納得はしてないだろうけど、ピザがおいしかったせいだろう、二人はニマニマ笑いながら去っていった。
「これであったかいシャワーが浴びれますね!」
「ああ。キミが風邪でも引いたら大変だからね。それより僕のピザ、焼いてくれないかな?」
「はいっ! 一緒に食べましょうね!」
居間には暖かな光が降り注ぎ、チーズの焼けるいい匂いが漂っている。
キッチンでは新しい給湯器からのお湯で湯気がふわふわと揺れている。
当たり前があることが、とても愛おしい。
僕たちは並んで皿を洗いながら、そんなことを感じていた。