ついに来たか……
僕は給湯器のスイッチを見つめて深いため息をついた。
新居に越してきてわずか二日目。
昨日までお湯を供給してくれていたガス給湯器が完全に沈黙した。
「今朝からこうなんです。スイッチ入れてもつかないし、電源を入れなおしてもダメでした。まだ新しそうなのに」
こんなこと考えたくはないのだが、貧乏神さんがさっそく本領を発揮してきたのだろう。
もちろん彼女のせいではないし、責める気なんてもちろんない。
「きっと見た目よりも古かったんだよ。なに、中古の住宅だからね、そんなもんだよ」
「でも……給湯器はわたしじゃ直せないです」
「そりゃそうさ。なんか資格とかもいるだろうし、ここはプロに頼むのが一番さ」
「なんか、すみません、これきっとわたしの体質のせいで」
「ちがうよ。なんでもそんな風に考えちゃだめだよ。これはただ機械が壊れただけ。機械ってのはいつか壊れるものなんだよ」
それでも彼女はなんか泣きそうな顔をしていたからそっと抱きしめた。
それからよしよしと頭をポンポンする。
「気にし過ぎだって。どれ、まずは業者を探してみよう。たしか不動産屋さんの名刺があったよね、そこで紹介してもらおう」
「はい。わたしもネットで調べてみます」
それから僕は不動産屋さんに電話。出入りの業者がいるとのことでつないでもらった。
単純な給湯器なら8万円くらいだという。
しかしそのクラスの安い機種は在庫がなく、工事までは二週間ほどかかるという。
「見つけました! ここ、すごく安いですよ!」
彼女はパソコンのモニターをクルリと向けた。
【即日工事! 業界最安値! 工事費込みで今だけ4万円!】
彼女は満面の意味を浮かべている。
どや。という自信たっぷりの笑顔。
「どうですか? タイミングもばっちりです!」
しかし……相場の半額。これは安すぎる。
安すぎて何か危険な香りがする。
しかし堂々とインタネットに載せているくらいだから大丈夫なのかな?
念のため注意書きに目を通すが、文字は細かく、スクロールは限りなく、とても読み切れない……
「どうですか?」
気づくと顔がくっつきそうな距離。
もう夫婦なんだから照れる必要はないんだけど……照れるものは照れるんだっ!
「そういえば、もうシャワー浴びたの?」
「はい。今日は水でシャワーでした!」
ああ、そうか、そうだよな。
いつまでも彼女にそんな思いをさせるわけにはいかない!
僕はブラインドタッチで鍛えた高速タイピングでササっと申し込みを済ませた。
なにを恐れる必要があるだろう?
いい業者だたらみっけもの。悪い業者だったとしても、僕は出費を恐れない!
ターンッ!
最後にクレジット情報を入力し、力強くエンターキーを叩き込む。
「よし、明日の朝一番で来てくれる。土曜日だから僕も立ち会うからね」
「え? もうできたんですか?」
「ああ。冷たいシャワーは今日だけだよ」
「すごいっ! あたしもっと何日もかかるかと思ってました」
むふう、と鼻の穴を膨らませた僕だった……
※貧乏豆知識①
【ちなみにガス給湯器、追い炊きなしのタイプだと8万くらいだったかな。追い炊きとかついている大きい奴だと20万~30万くらい?意外と高いんですよね。この相場情報があってるのかよくわからないんだけど、こんな相場感だった気が】
↑ より正確な情報あったら更新します。