「へぇぇ、思ったよりずっときれいだ!」
僕たちは新居となるマンションにやってきた。
「日当たりもいいし、風通しもいいし、しかも駅近! 近所にはスーパーもコンビニもある!」
まったくもって申し分なかった。
しかもこの物件驚くほど安い! 相場の半分以下だったのだ。
「まぁ築年数はたってますけどね」
彼女はそういってえへへと笑った。
そう、この物件は彼女が見つけてきてくれたのだ。
ローンで苦しまないように、とにかく安くてきれいで住みやすそうな部屋を選んでくれたのだ。
「まぁ壁紙なんかはあとで補修してペンキを塗ります。床も少したわんでますけど、あたしこれなら直せそうです」
「へぇぇ、そんなこともできるんだ?」
「ハイっ! DIYは得意なんです」
プニッとしたちからこぶがなんともかわいらしい。
ついで言うとプニッとした頬にできるえくぼがもうたまらん。
「これから週末は二人でいろいろと楽しめそうだね、ペンキ塗りはやったことないんだ」
「楽しいですよ。今週はホームセンターに行きましょうね」
それから二人でそれぞれ持ち寄った家財道具を広げてゆく。
広いと思っていた部屋は、ちょっとした棚を配置してゆくとあっという間に狭くなってしまう。
でもこれからは、この部屋が二人の城になるのだ。
そしてあっという間に夕暮れ。
なんとなくよそよそしい雰囲気が部屋に満ちているが、やがてなじんでいくだろう。さすがに食事を作る元気はないので、スーパーで特売のお寿司を買ってきて夕食にした。
「なんかあっという間の週末でしたね。疲れてませんか?」
「これくらい、どうってことないよ。これでもまだ若いんだから」
と、彼女が急に下を向いた。
そういえば彼女、いくつなんだろう?
見た目でいえば同年代。20代半ばくらいだ。
でも神様だからかなり年を取っているのかな?
「その、あたし……ほんとは……」
と言いかけたところであわてて遮った。
「辛っっ! うわ、これワサビどんだけ入ってんだよっ! このマグロの赤身、気を付けてね」
「はいっ」
下手な話題転換だったけど、彼女はボクの意図に気づいてくれたらしい。
もうその話をするつもりはないらしく、いつも通りの笑顔に戻ってくれた。
そんなこんなで楽しく夜は更けてゆき……寝る時間がやってきた。
寝る時間がやってきました!
大事なところなので二回続けて書きました!
寝室には二つ並んだ布団。
その一つにはパジャマ姿の彼女が寝ている。
ぐうぐうと寝ているわけではない。
目は閉じているけど、たぶんボクを待っている。
僕は天井のライトを消し……ゆっくりと腰を落とし、彼女の布団をそっとめくる。
なんともいえないいい匂いがする。まだ乾ききっていない髪、ほんのりと赤味がさした頬、ダブダブのパジャマでもはっきりとわかる柔らかそうな体つき。
なんか血圧があがる。
僕はそっとパジャマのボタンに手を伸ばし……
「ゴクリ……」
?
つばを飲み込む音は僕の喉から出たものではなかった。
ふ。と首を横に向けると、そこに膝を抱えた『爺さん』がいた。
幸い白塗りと黒い目の怖いビジュアルではない。
でもそこにいるというだけで十分怖かった。
てかどういうこと?
「あ……やっぱり出ちゃいましたね」
とは貧乏神さん。
「は?」
「実はこの家……いわゆる事故物件なんです」
道理で安かったはずだ。
でもそういうことは最初に言ってほしかった……
「大丈夫です。わたしこう見えても神様ですからね。ちゃんと成仏できるように説得しますから!」
(それまではお預けってことね)
その言葉はそっと胸にしまっておく。
おいたのに……
「なんじゃ、お預けか……つまらん」
爺さんはつぶやきを残して消えてしまった。
ちょっと名残惜しい。
でも観客がいるなんて状況ではさすがに……
「明日も早いんですよね? もう寝ないと」
彼女は僕の手を引きむぎゅっと抱きしめてくれた。
不思議なことにその一瞬で僕は眠りに落ちてしまった。