前略
この手紙がキミに届くかどうか分かりませんが、もう届こうが届くまいがどうでもいい気分です。
それでもこうして手紙を書くのは、書かないコトには頭が整理できないから。
それとキミにだけはオレの生存報告をしておきたいから。
でも書きだしてみると、それすらどうでもよくなってくるから不思議だ。
そうそう、まずは生存報告から。
オレがいきなり消えたんでキミも多少なりと驚いたと思う。
まぁオレ自身もかなり驚いたんだけど、今はだいぶ落ち着いている。
そうでなきゃ手紙なんて書いている余裕はないわけだし。
で、とにかく今現在。
オレは別の世界でちゃんと生きている。
キミが心配しているかどうかわからないけど、とりあえず心配はいらない。
そう書いておいていきなり言うのもあれだけど、オレ自身の生活はかなり心配です。
というか、かなり深刻な状況です。
もう毎日が心配で心配で、夜もあまり眠れていません。
食欲だけはあるけれど、そうそう、食事はかなり美味しいのです。
食べなれない、というか聞いたこともない食材ばかりだけど、調理された料理はかなり美味しいです。
うん、それだけが楽しみで、唯一の救いかな。
でもそれ以外は最悪です。
オレは異世界というのは冒険と聖剣と魔法と美少女に囲まれた、男の楽園みたいなところだと思ってました。
それこそが異世界ファンタジーだと。
血沸き肉躍る冒険を繰り広げ、世界に革新をもたらす英雄になり、ときには美少女との色恋沙汰を楽しむ。
そんな期待に胸を膨らませていました。
でも現実の異世界は予想とは大きく違いました。
不気味な色の空、荒れ果てた大地、腐ったような海、街の中は死体だらけで、いたるところで血が流れています。
隙あらば襲い掛かる怪物たち、卑屈になった町人たち、集団で襲いかかる理性のカケラもない盗賊、力任せに弱者を蹂躙する魔物たち。
そんなのばっかりです。というかそんなやつらしかいません。
もう心が休まる暇もありません。
そうですね、一言でいうならばここはファンタジーの中でもパリパリの『ダークファンタジー』の世界。
これからこの世界でどうやって生きていけばいいのか?
そんなことを考える暇もないくらい逃げ回って暮らしています。
なんだか、思い出しただけで続きを書く気すら失せてきました。
またペンを握る元気と余裕が出来たら続きを書いて送ります。
もちろん生きていればの話だけど。
草々