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読んだ

オリンピックという連日の激戦に甲子園が加わり、ひたすらに時間を奪ってくるクライミングに目を離すタイミングがないスケボーに花形の陸上競技に睡眠不足を誘発するレスリングにいよいよ頭と躰が足りなくなってきたなか、須賀敦子『トリエステの坂道』を読みました。
面白かったけど……ネタバレ注意ー。

さて、名文家として知られているいるらしい須賀敦子を読んでみようのパッと手に入った二冊目『トリエステの坂道』です。前も書きましたが基本的にエッセイなんだけど小説のようでもある作風です。本作は表題にあるとおりイタリア北東部はクロアチアのすぐそばトリエステから始まります。もうほんとギリッギリイタリアみたいなところ。そこに弾丸ツアーの如く旅立った須賀敦子の旅行記となっております。
他は前回の『ヴェネツィアの宿』には少なかったイタリアの家族つまり早くに亡くなった旦那さんの義実家まわりの話が中心となっております。

文体は前回と同じくエッセイと小説の間というか融合……なんですが、今回は義実家まわりの話になるとすごく小説っぽくなるというか、独特です。後述。あと連載時期とかそういうのが分からないので軽々にいえませんが、なんか前半の何本かは比喩が変な感じになっているというか、馴染んでいないような印象を受けました。もっと率直だったようなと首を傾げるような感覚です。描写は相変わらずとても上手いんですけど、これも何か息の長さやリズムが妙な印象を受けました。上手いですけどね。


さてお気に入りポインツ!
人によって分かれそうではありますが、当時のイタリア庶民の暮らしぶりとかが見えてくる感じ。前も書いたんですけど、基本的に須賀敦子さんはお金持ちのインテリです。でも旦那さんはインテリながら庶民というか、時のファシスト党に入らなかったためにわりと冷遇されていた鉄道局の人の息子さんなんですね。つまり、生活感や価値観といった文化の差がわりとはっきりと出てきます。
そのために、けっこう暗い表現が多いというか、辛辣というか……考え方によっては傲慢とも映りかねない場面が頻発し、これが逆に作者である須賀敦子の、実際の肌感を表しているような気がしました。

お気に入りポインツ2!
二冊目を読んで気づいたんですけど、須賀敦子、ちょっとしたことでびっくりしすぎじゃない? 蚊に刺された痛みで泣き叫ぶようなじゃないですが、すんごいちょっとしたことでイタリア世界全体の深淵に触れて闇の底で天を仰ぐような内面描写が入ります。繊細すぎるでしょう。いや文章を見ていれば繊細な人だったんだろうとは思うんですけど、行動力の化身みたいなくせして中身が十歳の少女ってノリでギャップがちょっと好きかもしれないと思いました。

お気に入りポインツ3!
これは気になるポインツでもあり、またデビュー作のミラノを読んでないので何ともいい難いのですが、なんか全体的に文章が下手になっているというか、背伸びをしているような気がするというか。小説に向けて試行錯誤しているうちに変なことになっちゃったって感じがしなくもないです。特に最初の方ででてくる仰々しい比喩。ちょっと描写にそぐわなくなっている。そこがこう、小説を書き始めた当初は素朴で読みやすかったのに慣れてきた結果、技巧的になり、かえってへんてこな感じになってしまい、まだ戻れないみたいな感じがします。ええ。私のことです。なので共感しちゃいましたね。


気になるポインツ1!
前半に書きましたが、本作では義実家の話が度々でてきます。連載の区切りもあって同じ内容が文章を変えて繰り返されるのですが、その復習部分が本で読んでいると無くても成立しちゃうというか、邪魔です。話の流れからもなんか浮いています。多忙ななか原稿にとりかかるとき思い出すきっかけに作者みずから置いておいた文章がそのまま載っちゃったみたいな印象。

気になるポインツ2!
家族の話で義母や義弟やらが主役になると、あたかも小説のキャラのようにあれこれ内面を語ったり相手の印象について語ったりします。取材に基づいているのか単に想像しているのか分かりませんが、なんかこの義家族の独白が、後述する貧富の差というか価値観の差と合わさることで、エッセイという特性上それあんたの偏見ちゃうんかってなります。入り込めない。小説としてなら読めますけどね。


気になるポインツ3!
この義実家がどれくらい貧しいのか分からないんですが、なんかすごく貧しいとか暗いとか書きまくってて、上から目線を感じる表現が多いのです。いや生育環境が違うから当たり前なんですが、けっこう見下し気味に語っているように見えます。これは私がそう感じているだけなので、単に私が僻んでいるのかもしれません。でもイタリアのは知らないけれど二昔いじょう前の土地が痩せてる田舎の農家の暮らしなんて、どうであれ当地なりの悲喜こもごもがあるわけでして、なんでそんな憐れみの目を向けられなければならんのじゃって感じがなくもなく。まあ田舎って無茶苦茶なところは破茶滅茶なので、私だってうわあってなることはあるんですけどね。でも私は庶民で()


まとめ。
須賀敦子は『ヴェネツィアの宿』と『トリエステの坂道』しか読んでいませんが、おすすめするなら断然ヴェネツィアの宿です。風俗史とか民族史とかそういう観点で読むならトリエステの坂道。文章はヴェネツイアの方が圧倒的に上手いような気がします。こちらは過渡期にあるって印象ですね。
読み物として面白いのはヴェネツィアで、こちらは史料的価値って感じです。あくまで私の印象ですけれども。
とりあえず、読みました。
名文家の文章を見て学ぼうと読んだものの、不遜にもこの描写の感じ私も似たようなところない? と思いました。そういえば私も小説めいたエッセイを書いてる時期あったな……何か人間的に似ているところがあるのだろうか。分からん。
余談ですが、本作には須賀敦子の創作メモが最後にまとめられていまして、そこで吉行淳之介『樹々は緑か』を授業で取り上げたときの一節があるんですが、ここで私は女学生と同じ疑問を抱きました。
ざっくり言うとオッサン先生が娘ほどの女学生に惚れて男の友人に誘われて女学生の働く店に行くんですが、そこで男の友人がオッサン先生を意識しつつ『君のお父さんにはヒゲなんて生えていないんだろうね』というシーン。
聞いていた女学生は、なんでここでヒゲの話? と。私もなりました。
須賀先生の回答は分からない? わからないよ! たぶん読んだことないからだろうとあらすじ検索したりして納得です。なるほど。



明日のラッキー思いつき嘘知識
『イタリアと言えば長靴の形として知られるが、植民地も含めると右足のハイサイプーレーヌの形となっている』

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