ありとあらゆることが上手くいかないので本を読むなどをしたりしていました。
というわけで、ピエール・ルメートル『悲しみのイレーヌ』です。
面白かったーのでネタバレ注意ー。
で、これ以前に読んだ『その女アレックス』の作者の処女作……デビュー作? で、カミーユ・ヴェルーヴェン警部シリーズの一作目だそうな。
2013年の本屋大賞、翻訳小説部門一位だったんですね。なんで私はまったく知らないんだろうと思ったらその頃の私は以下略です。
内容としては欧米警察小説あるあるの猟奇殺人スタートですね。これがなかなかハードな猟奇なのでグロ苦手な方はわりとしんどいかもしれません。
私なんかはまったく平気なんですが、というかアメリカの警察小説だと登場人物が引くことってあんまないイメージなんですが、こちらではちゃんと主人公ともども皆さん引いておられます。正しい。
文体としては癖がなくドライなタイプ……なんですけど、フランスなので描写が濃くてふいにポエトリー。こう、アメリカのとはまた毛色が違う気がするんですね。なんでなのかはまあ専門家にお任せするとして。
ミステリーというよりサスペンスなのは実に海外ですが、こちら犯人が出落ちとなります。出てきた瞬間にお前やんとなります。まあサスペンスなので犯人がどうして犯人として同定されるのかが重要なのですが。
1つ目の猟奇から連続殺人を疑い、再調査したら類似の事件があり、さらに続いて、どうもこれ海外ミステリ(仏語版)の猟奇シーンを模倣してるな? まできてからが本番。本番か? まあよいです。
流れとしてはとてもオーソドックスで、取り立てて驚きはないものの筆力でもたせているような印象。しかし! 第二部に入った途端に物語の様相がぐわぁんと振り回されます。百八十度転換とはちょっと違うのですが、なるほどこれは賞を取るわと思わされる変則攻撃!
というわけで、ここから超重大なネタバレを含みます。面白さの根幹というか、これがないと別に騒ぐほどは面白くない(!)のですが、このネタバレ一つで大騒ぎになる面白さになります。
なので、一応、読んだことがない方のために、数行ほど飛ばしておきますね。
-----ココカラ----
海外ミステリを模倣した猟奇殺人だったのだ! から第一部の終わり間際、主人公の奥さんが誘拐されます。原因は捜査のために犯人とコミュニケーションを取ろうとして住所バレしたからでして、ついでにようやく最初からお前が犯人じゃろが確定、一通の手紙が届きます。
それがなんと、本作の冒頭の引用なのでした。
おいおいおい、からの第二部が始まります。この時点で全450ページくらいの400ページ。そうです。大オチです。第二部はオチの念入りな解説となっているんですね。
ここで明らかになるのが、実は犯人の処女作を模倣しているのが最後の事件ということ。
自分で書いたものを自分で実現することで珠玉の一作にってなんかどっか見たことある気がしますがそこはともかく。
警察内部の内通者だけでは知ることのできなかった人物名は架空の名前ですが、捜査の流れなんかはだいたい同じ。どころか、第二部が始まると一部の登場人物の名前が変わります。変わったうえで重要なセリフとして「私などは◯◯という名前で登場し~」みたいなの。
そう! 長々と読んできたのは犯人が書いた小説かもしれないのである! どこまで小説でどこまでが物語世界なのかは謎です。精査する気力はありませんでした。
大ネタとしてこの手の半メタ構造の存在は知ってたんですが、ばっちり食らったのは今回が(たぶん)初めてなのでガツーンとなりましたね。
そこから先は怒涛です。現場はあそこじゃーからの警部暴走、交通事故。交通事故? 急行したらそこには大グロ現場が広がっておりましたとさ。ネタバレ部なので書いておきますが、胎児を引きずり出して十字架に張り付けにしてあったとか、すごいアイデア! よく思いつきましたねルメートルさん。尊敬です。
そいでラスト! 大オチの犯人の捕まえ方がすごく好き! そうだよ、そういうのでいいんだよ! みたいな。実にフランス(偏見)。
----ココマデ----
ネタバレ部を飛ばしても分かるように書かねば……!
ということで、面白お気に入りポインツはグロ現場の凄まじさでしょうか。
あとルイくん。設定的にはそこそこの年齢っぽいですけどなんかいいですね。垂れた前髪をどちらの手で掻き上げるかで心情が分かるとかマニアック。
身長145cmで禿頭のカミーユさんが優秀そうで意外と考えなしなところがあるのも嫌いではないです。
なによりも長くて文字がみっちり詰まっている割にするする読めるのはよいですね。波長が合うのか、文春文庫の文字組みとか体裁がいいんですかね? 読みやすかったです。
気になるポインツは一つ。
犯人からの手紙がイタリック――というか斜体で出てくるんですが、これが内容ともども超絶に読みにくい! 読んでてイライラしてくるくらい内容がない! でもこれ、そういう目的で書かれた文章ぅー! なので仕方なし!
いやでも犯人の文章、これまじ早う用件を言えやあ! ってなりますよ。凄い。このイラっとくる文章を狙って書けるのが凄いです。
まとめ。
大ネタがなければ普通に面白い小説なんですが、大ネタがあることでふいに脳みそぶん殴ってくる系小説に昇華されております。
考えてみれば途中で気づけたのに気付けなかったー。
とても面白かったですし、グロ部分は飛ばしても問題ないので、広くオススメしても……いやでもちょっと長いか……。
明日のラッキー思いつき関東地方のある場所について
『いえね? 球場なのに鳥小屋なんて呼ばれている謎の空間があるんですよ。そこに、いるんです。なんか、黒いやつが……なんでも自分を燕だと思いこんでいるペンギンなんだそうですが……ペンギンは競馬しないし、ビールも飲みませんよね? え? 飲むんですか?』