ランダム生成したとしか思えないアドレスからメールが送られてきた。
『既読ついてるのに返事がないってどういうこと?』
私のスマートフォンにL◯NEは入っていない。スパムメールだろう。
無視してると、なにかあったのかとか、もしかしてこっちがおかしいのかとか、ストーリー仕立てにしつこくメールが送られてきた。メンドくさいな――そうだ。
私はふと思い立ち、過去に送られてきたスパムメールについていたアドレスをコピーし、先のメールへの返信を書いた。
「マジで? なんか名前わからんくなってる。確認するからここ入ってみてhttp……」
スパムにはスパムで――というほどの意味すらない。反応すればしただけしつこくなりそうな気もしないでもなかったが、一度くらいはスパムを送る側になってみたかっただけだ。
しばらくすると、律儀にもまた同じアドレスからメールがきた。
『なにここ? ふざけんなお前』
私は笑った。マジで押すやつがあるかと。
私はスマートフォンを置いて風呂に入った。もしかして知り合いだったりするのだろうかとも思った。しかし、おそらくそれこそがこの手の輩の狙いだろう。
風呂上がり、携帯電話のライトが点滅していた。着信だ。開いてみると、同じアドレスからだった。
『マジでなに? 怖いんだけど。てか、どこにいんの?』
ホラー仕立てとはおもしろい。なにか反応してやるべきだろうか。
私が返信ボタンを押して文面を考えていると、またメールが届いた。
『たすけて』
「……は?」
私は思わず吹きだした。手が込んでいる。またきた。
『お願いです。解除方法を教えてください。迷惑メールの件は謝罪いたします。どうか助けてください。返信よろしくお願いしまう』
笑えた。
「誤字ってんぞー」
私はそう返信した。しばらく待ってみたものの返事がなく、私は急に飽きてきた気がしてベッドに入ってしまった。
そうして、メールのことなどすっかり忘れたころだった。家のインターフォンがなり、カメラに背広の男二人が映っていた。
「どなたです?」
「あ、等夢田《らむだ》さんですか?」
「はい。そうですが?」
表札に書いてあるだろうに。
男は懐から黒い手帳に似た物を出し、カメラに映るように開いてみせた。
「警察です。ちょっとお伺いしたいことが」
「はい!?」
「ええと、ここではなんなので――」
「ちょ、ちょっと待ってくださいね」
いったいどういうことなのか。思い当たるフシはない。あるとすれば、友人が事故や犯罪に巻き込まれ、携帯に私のアドレスが残っていたとかだろうか。
こういうとき変に非協力的だと不利になるとも聞いていたし、私は急いで扉を開けた。
警察を名乗る男たちを家にあげると、彼らは死んだ魚のような目をして尋ねてきた。
「◯◯さんとはどういうご関係ですか?」
「は? 誰です?」
「あなた、四月|一日《いっぴ》にメールを送ってますよね?」
「え?」
「位置特定用のアドレスを送ったでしょう」
「は? 位置特定……?」
意味がわからなかった。
警察は面倒くさそうにため息をついた。
「任意、応じてもらえますか」
「と、いうと……」
「警察署までご同行願えますかというんです」
「な、なんで……」
「等夢田さんね。あなた、◯◯さん殺害の疑義がかかってるんですよ」
というどこかで見たようなタイトルの冒頭を考えたけどミステリは読書不足なので続きが思いつかないでやんす。